琥珀の中の一等星
嵌っている、オレンジの石の上を彼の指がなぞる。庭仕事を生業としているために、ごつごつとしているしっかりした指で。なんだかその指に自分が撫でられているように感じて、くすぐったくなりながら、ライラは「うん、綺麗でしょ」と言った。
「大事にしろよ」
ハンカチから取り上げて、ライラに差し出してくれた。ライラは手を出してそれを受け取る。僅かに触れた指先にどきどきしながら。
「うん。およそゆきにする」
てのひらに乗せてもらったそれを大切に見つめて言ったのだけど。直後、肯定されたもののからかわれた。
「それがいい。お前は不器用だから……」
「もういいでしょそれは!」
ライラが膨れたことで、今度はリゲルが声を出して笑う。
「ま、それでもまた壊しでもしたらすぐに言えよ。しょぼくれてるよりずっといいからな」
笑われたことには膨れたものの、その言葉はとても嬉しくて、ライラはすぐに機嫌を直した。「うん!」と満面の笑みで頷く。
「何度でも直してやるさ」
微笑むリゲルの顔はとても優しかった。穏やかなだけでなく、なんだか愛しげでもあって、ライラは妙にどきどきしてしまう。
もう成人して少しする立派な男の人なのに、リゲルは童顔だ。それこそたまに「学生さんですかとか聞かれる」とかぼやくくらいには。
だというのに、表情はまるで子どもっぽくはない。こんな眼をすると、余計に。手に仕事をつけてしっかり働いていて、力もあって、優しくもある、大人の男のひと。
「オレンジ、好きだよな」
ライラの視線をどう取ったのか、リゲルはふと言った。
「え、あ……うん」
返事をする言葉は一瞬だけ濁った。だって彼みたいだから、なんて言えるはずないではないか。
オレンジ色の服を好んで選んでいたり、そして瞳もオレンジを薄くしたような琥珀の色のリゲル。せめてアクセサリーとしてだけでも傍にいてくれるように感じたい、なんてことは。
「そういや、あれもオレンジだったっけか」
ふとリゲルが言って、ライラは「あれ?」と首をかしげたのだが。
「覚えてないか? お前が昔、花をくれたろう」
言われたことに心臓が飛び出るかと思った。
覚えて、くれていた?
「無理もないか。お前、まだだいぶ小さかったからな」
初めてリゲルが本格的な仕事に出る前に、まだ小さな子どもの手で渡した、ポケットに詰め込んでもってきた一輪の花。
「お、覚えてないっ!」
ついそう言っていた。いまや一人前の庭師になっているリゲルに、少ししおれて歪んだ花をプレゼントしたなんて。
確かに覚えていない部分もあるけれど。あれがなんの花だったのかとか。
あのときなんの花が植えられていたかなんて、すっかり忘れてしまっていたし、今更父や母に訊いてもわかりやしないだろう。昔すぎて。でも花を渡したことはちゃんと覚えていたのに。
「そっか?」
リゲルはおかしそうに笑って、そのあとすぐ話題は変わってしまった。
「そういえばもうすぐ試験だろう。勉強はどうなんだ?」
助かったような、なんだか残念なような。少し腑に落ちない気持ちを感じながら、ライラは「ちゃんと勉強してるもん」などと答える。
リゲルはその日も「家にメシがあるからな」と帰っていってしまった。でもその前にちゃんと、「今度ライラのご飯も食わせてくれよな。あのパイ包み美味いから」と言ってくれた。
褒められたことが嬉しくて、ライラはにこっと笑って「うん。いい食材が手に入ったら言うね。そしたら、来て」と自分からお誘いしていた。
「大事にしろよ」
ハンカチから取り上げて、ライラに差し出してくれた。ライラは手を出してそれを受け取る。僅かに触れた指先にどきどきしながら。
「うん。およそゆきにする」
てのひらに乗せてもらったそれを大切に見つめて言ったのだけど。直後、肯定されたもののからかわれた。
「それがいい。お前は不器用だから……」
「もういいでしょそれは!」
ライラが膨れたことで、今度はリゲルが声を出して笑う。
「ま、それでもまた壊しでもしたらすぐに言えよ。しょぼくれてるよりずっといいからな」
笑われたことには膨れたものの、その言葉はとても嬉しくて、ライラはすぐに機嫌を直した。「うん!」と満面の笑みで頷く。
「何度でも直してやるさ」
微笑むリゲルの顔はとても優しかった。穏やかなだけでなく、なんだか愛しげでもあって、ライラは妙にどきどきしてしまう。
もう成人して少しする立派な男の人なのに、リゲルは童顔だ。それこそたまに「学生さんですかとか聞かれる」とかぼやくくらいには。
だというのに、表情はまるで子どもっぽくはない。こんな眼をすると、余計に。手に仕事をつけてしっかり働いていて、力もあって、優しくもある、大人の男のひと。
「オレンジ、好きだよな」
ライラの視線をどう取ったのか、リゲルはふと言った。
「え、あ……うん」
返事をする言葉は一瞬だけ濁った。だって彼みたいだから、なんて言えるはずないではないか。
オレンジ色の服を好んで選んでいたり、そして瞳もオレンジを薄くしたような琥珀の色のリゲル。せめてアクセサリーとしてだけでも傍にいてくれるように感じたい、なんてことは。
「そういや、あれもオレンジだったっけか」
ふとリゲルが言って、ライラは「あれ?」と首をかしげたのだが。
「覚えてないか? お前が昔、花をくれたろう」
言われたことに心臓が飛び出るかと思った。
覚えて、くれていた?
「無理もないか。お前、まだだいぶ小さかったからな」
初めてリゲルが本格的な仕事に出る前に、まだ小さな子どもの手で渡した、ポケットに詰め込んでもってきた一輪の花。
「お、覚えてないっ!」
ついそう言っていた。いまや一人前の庭師になっているリゲルに、少ししおれて歪んだ花をプレゼントしたなんて。
確かに覚えていない部分もあるけれど。あれがなんの花だったのかとか。
あのときなんの花が植えられていたかなんて、すっかり忘れてしまっていたし、今更父や母に訊いてもわかりやしないだろう。昔すぎて。でも花を渡したことはちゃんと覚えていたのに。
「そっか?」
リゲルはおかしそうに笑って、そのあとすぐ話題は変わってしまった。
「そういえばもうすぐ試験だろう。勉強はどうなんだ?」
助かったような、なんだか残念なような。少し腑に落ちない気持ちを感じながら、ライラは「ちゃんと勉強してるもん」などと答える。
リゲルはその日も「家にメシがあるからな」と帰っていってしまった。でもその前にちゃんと、「今度ライラのご飯も食わせてくれよな。あのパイ包み美味いから」と言ってくれた。
褒められたことが嬉しくて、ライラはにこっと笑って「うん。いい食材が手に入ったら言うね。そしたら、来て」と自分からお誘いしていた。