琥珀の中の一等星
琥珀にくちづけ
夜も更けて湯あがり、いつのまにか詩を口ずさんでいてライラはふっとそのことに気付いた。
私、今、うたっていたわ。
まるで無意識だった。それはリゲルの詩ではなく、単に本で見た作品であったけれど、意識しないうちに詩を口に出してしまっていたことがなんだか今は妙に恥ずかしい。
リゲルが「俺の詩を読んでくれ」と言ってくれたことに、舞い上がってしまっているようではないか。そのとおり、ではあるのだけど。
リゲルの詩は、明日見せてもらうことになっていた。リゲルがお休みで、ライラの学校が早く終わる日であるために。
どんな詩なのかとても楽しみだった。リゲルの詩は仕事をしながら、つまり植物弄りをしながら考えるだけあって、花や自然に関するものが多かった。野の香りのするきれいな詩(うた)だ。
自分がそれにつけるメロディなんて即興のものであるというのに、そんなものは関係ないとばかりにリゲルの紡ぐ言葉は魅力的であった。
きれいな詩(うた)を生み出せるリゲルのことを、好きだと思う。詩は彼の内面がそのまま出てきているであろうから。詩は彼の一部。強く感じてしまう。
そしてそれを自分の声で歌えることが誇らしく、嬉しい。
おまけに彼がそれを好きだと、良いとまで言ってくれるのだ。じゅうぶんではないか。
なのに。
綺麗に洗った髪をとかすために、鏡台からブラシを取り上げながら、ライラはひとつためいきをついてしまった。
ああ、もう。
普段はちっとも引っ込み思案なんかではないのに、リゲルに対する想いに関してはどうしても臆してしまう。ある意味それは、幼馴染という関係があるからこそでもある。妹分でもいられなくなってしまったら、という不安。
でもそれに甘んじていたら、それこそミアの言ったとおり『取られて』しまうのだ。
明るくて、ひとに優しくて、見た目だってカッコよくて、そして安定した仕事のある大人であるリゲル。ほかの女のひとから見たって魅力的に決まっている。
そんなことは嫌なのに。
自分の恋人になってほしいのに。
なのにリゲルのことを心で見つめるだけで、口に出せない。
「リゲルのことが好き」とか。
「私のことを恋人にしてほしいな」とか。
あるいは「妹としてしか見られない?」とかでもいい。
要するに、その点に関することならなんでもいい。でもそのひとつだって口にすることができていないのだ。
私、今、うたっていたわ。
まるで無意識だった。それはリゲルの詩ではなく、単に本で見た作品であったけれど、意識しないうちに詩を口に出してしまっていたことがなんだか今は妙に恥ずかしい。
リゲルが「俺の詩を読んでくれ」と言ってくれたことに、舞い上がってしまっているようではないか。そのとおり、ではあるのだけど。
リゲルの詩は、明日見せてもらうことになっていた。リゲルがお休みで、ライラの学校が早く終わる日であるために。
どんな詩なのかとても楽しみだった。リゲルの詩は仕事をしながら、つまり植物弄りをしながら考えるだけあって、花や自然に関するものが多かった。野の香りのするきれいな詩(うた)だ。
自分がそれにつけるメロディなんて即興のものであるというのに、そんなものは関係ないとばかりにリゲルの紡ぐ言葉は魅力的であった。
きれいな詩(うた)を生み出せるリゲルのことを、好きだと思う。詩は彼の内面がそのまま出てきているであろうから。詩は彼の一部。強く感じてしまう。
そしてそれを自分の声で歌えることが誇らしく、嬉しい。
おまけに彼がそれを好きだと、良いとまで言ってくれるのだ。じゅうぶんではないか。
なのに。
綺麗に洗った髪をとかすために、鏡台からブラシを取り上げながら、ライラはひとつためいきをついてしまった。
ああ、もう。
普段はちっとも引っ込み思案なんかではないのに、リゲルに対する想いに関してはどうしても臆してしまう。ある意味それは、幼馴染という関係があるからこそでもある。妹分でもいられなくなってしまったら、という不安。
でもそれに甘んじていたら、それこそミアの言ったとおり『取られて』しまうのだ。
明るくて、ひとに優しくて、見た目だってカッコよくて、そして安定した仕事のある大人であるリゲル。ほかの女のひとから見たって魅力的に決まっている。
そんなことは嫌なのに。
自分の恋人になってほしいのに。
なのにリゲルのことを心で見つめるだけで、口に出せない。
「リゲルのことが好き」とか。
「私のことを恋人にしてほしいな」とか。
あるいは「妹としてしか見られない?」とかでもいい。
要するに、その点に関することならなんでもいい。でもそのひとつだって口にすることができていないのだ。