琥珀の中の一等星
今日はそんなリゲルと会う予定があった。リゲルの仕事後、そしてライラの学校のあとに食事を共にしようという話になっていたのだ。
そのようなことは時折あった。幼馴染ということもあって、大概どちらかの家であるのだが、ライラの家のほうが多少裕福であることからライラの家にお招きとなることのほうが多かった。
ライラの両親も、明るく実直なリゲルのことは気に入っている。どう思っているかは謎であるが。
どう、とは……つまり、年頃の女子になったライラの相手としてどうであるかという点について。
リゲルとはただの幼馴染である。今のところの関係性としては。
ただ、ライラにとって特別な男性であることに違いはなかった。そしてその気持ちは年々強くなっていった。
リゲルは幼馴染ではあるが歳が五つも離れているので、感覚としては『お兄ちゃん』であった。また、はじめから男性としての認識がとても強くなかったのは、年齢のためではなく彼の外見的特徴も手伝っていただろう。
彼は背が低いほうであった。ライラが女性としては、若干背が高めであることも手伝って、視線はほとんど変わらないのである。
また顔だちも童顔であるといえる。よって、成人した今でも「学生さんですか、とか聞かれるんだよな」とかたまにぼやいている。
しかし年頃の女子としてライラの中では既に、彼はただの幼馴染でもお兄ちゃんでもなくなっている。ほんのりとではあるが、これは恋心であることを数年前から自覚していた。
が、リゲルとの関係は特別なにも変わらなかった。
ライラが成長しても、リゲルからの扱いもなにも変わらなかった。妹に近い幼馴染に接する態度、そのままである。
でも、お兄ちゃんでもいい。心地いい関係で、大切なひとであることに違いはないから。
そう思ってここまできたのだけど。
周りの環境がそれで許してくれなくなりつつある。
そう、学校の中等科を卒業した女子の行き先のひとつに、『お嫁入り』というものがあるので。『お嫁入り』まではいかずとも、『花嫁修業』という道もある。
そして早い子であればとっくに年上の相手を見つけて、「学校を出たら結婚するの」と公言している子もいる。もちろん十六才で結婚というのはかなり早い部類になるので、友達の中でも一、二人しかいないのであったが。ライラはそれがちょっと羨ましかった。
お嫁さん。
子どもの頃、まだ初等科に入る年齢にも満たない頃は「リゲルのお嫁さんになる!」なんて言ったこともあったなぁと思ったので。
当たり前だ、『結婚』という制度を知った少女にとっては一番身近な男性だったのだから。そしてリゲルも「大きくなったらな」と、ちょっと恥ずかしそうではあったものの言ってくれていた。
しかし今ではそんなことは、ただの想い出にしかなくなっていた。「お嫁さんになる」なんてことは、すぐに恥ずかしくて言えなくなってしまったし、あちらからなにかしらを言われることもなかった。
そしてもうひとつ、心に引っかかっていることのために。
「ライラ。そろそろお夕飯の仕込みをするから手伝いなさい」
五年前のやりとりから、ここまでのことをぼんやりと考えてしまっていたライラを、階下から母が呼ぶ声がした。
ああ、もうそんな時間。
見ていた窓の外もオレンジ色になりつつあった。
今夜はなにを作るのかしら。せっかくリゲルがくるのだから、好きなものを作ってあげられればいいんだけど。
思いながら、ライラは、ふ、と微笑んでいた。
そのようなことは時折あった。幼馴染ということもあって、大概どちらかの家であるのだが、ライラの家のほうが多少裕福であることからライラの家にお招きとなることのほうが多かった。
ライラの両親も、明るく実直なリゲルのことは気に入っている。どう思っているかは謎であるが。
どう、とは……つまり、年頃の女子になったライラの相手としてどうであるかという点について。
リゲルとはただの幼馴染である。今のところの関係性としては。
ただ、ライラにとって特別な男性であることに違いはなかった。そしてその気持ちは年々強くなっていった。
リゲルは幼馴染ではあるが歳が五つも離れているので、感覚としては『お兄ちゃん』であった。また、はじめから男性としての認識がとても強くなかったのは、年齢のためではなく彼の外見的特徴も手伝っていただろう。
彼は背が低いほうであった。ライラが女性としては、若干背が高めであることも手伝って、視線はほとんど変わらないのである。
また顔だちも童顔であるといえる。よって、成人した今でも「学生さんですか、とか聞かれるんだよな」とかたまにぼやいている。
しかし年頃の女子としてライラの中では既に、彼はただの幼馴染でもお兄ちゃんでもなくなっている。ほんのりとではあるが、これは恋心であることを数年前から自覚していた。
が、リゲルとの関係は特別なにも変わらなかった。
ライラが成長しても、リゲルからの扱いもなにも変わらなかった。妹に近い幼馴染に接する態度、そのままである。
でも、お兄ちゃんでもいい。心地いい関係で、大切なひとであることに違いはないから。
そう思ってここまできたのだけど。
周りの環境がそれで許してくれなくなりつつある。
そう、学校の中等科を卒業した女子の行き先のひとつに、『お嫁入り』というものがあるので。『お嫁入り』まではいかずとも、『花嫁修業』という道もある。
そして早い子であればとっくに年上の相手を見つけて、「学校を出たら結婚するの」と公言している子もいる。もちろん十六才で結婚というのはかなり早い部類になるので、友達の中でも一、二人しかいないのであったが。ライラはそれがちょっと羨ましかった。
お嫁さん。
子どもの頃、まだ初等科に入る年齢にも満たない頃は「リゲルのお嫁さんになる!」なんて言ったこともあったなぁと思ったので。
当たり前だ、『結婚』という制度を知った少女にとっては一番身近な男性だったのだから。そしてリゲルも「大きくなったらな」と、ちょっと恥ずかしそうではあったものの言ってくれていた。
しかし今ではそんなことは、ただの想い出にしかなくなっていた。「お嫁さんになる」なんてことは、すぐに恥ずかしくて言えなくなってしまったし、あちらからなにかしらを言われることもなかった。
そしてもうひとつ、心に引っかかっていることのために。
「ライラ。そろそろお夕飯の仕込みをするから手伝いなさい」
五年前のやりとりから、ここまでのことをぼんやりと考えてしまっていたライラを、階下から母が呼ぶ声がした。
ああ、もうそんな時間。
見ていた窓の外もオレンジ色になりつつあった。
今夜はなにを作るのかしら。せっかくリゲルがくるのだから、好きなものを作ってあげられればいいんだけど。
思いながら、ライラは、ふ、と微笑んでいた。