琥珀の中の一等星
 ほんとうはこんなもの、投げたいくらいに憎かったけれど、これだってリゲルの一部なのだ。そんな乱暴なことはできない。
 よって、なんとかではあったがそっと机の上に置いた。それが精一杯だったけれど。
 空いた手で目元を拭ってもとまらない。立っているのもつらくなって、ベッドへ向かった。身を投げ出す。
 自分の匂いの付いたシーツはやさしくライラを包んでくれて、もっと涙が出てきた。嗚咽も零れてくる。
 見てしまったことが辛くてならなかった。
 リゲルの、初恋のひとへの想い。
 自分のことを好きだと言ってくれた。それを疑ってなんていない。ほんとうに好きでいてくれる。わかっている。
 けれど、昔、自分とは別のひとを好きだったことは事実。
 そしてそのひとと自分は、まったく違うタイプであるのも事実。
 だから、あのひとへ抱いたのと違う想いを抱かれてしまったらどうしよう。
 今まで何度も反すうしてきた不安が堰を切ったように溢れてきてしまったのだ。
 枕に涙を吸わせながら思う。
 あのノート。
 リゲルに返さないと。きっとあの頃のリゲルには大切なものだっただろうから。どうしてうちの地下室なんかにあったのかはわからないけれど。
 リゲルに今度会ったときに返そうと思う。「何故かうちにあったよ」なんて、気軽にぽんと渡せるはずなんてなかったけれど。なにかしら不安定な様子を見せてしまうに決まっている。
 でも返さないわけにはいかないのだ。
 リゲルにとって、やっぱり大切な。
 そこまで思い描いて、一瞬ライラの涙はとまった。もっと醜い気持ちに気付いてしまったゆえに。
 リゲルにとって大切であるとかそういうこと、それ以上に、このまま自分で持っていたくなかったのだ。大好きなひとの大切なものに対して、なんて汚い感情だろう。
 不安を覚えても仕方が無いとは思う。
 けれどこんな気持ちになりたくなかったし、自分の醜い感情も思い知らされたくなかった。その気持ちを認めたくないがゆえに苦しくなり、痛んだ胸は次から次へ涙を吐き出した。
 すっかり日も暮れて、母が「ライラ? 居るの? お夕飯を作るわよ」とドアを叩くまで。
 涙はすっかり出尽くしたものの、ライラはベッドに突っ伏していた。
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