琥珀の中の一等星
琥珀の中の一等星
「もう真冬だからな。冬のダイヤモンドが見えるぞ」
「え、どれ?」
冬のダイヤモンド。
いつかのカフェ、ノートをプレゼントしたときにリゲルが話してくれたことだ。
「ええとな、あそこのあれ。見えるか。あれとな、その少し下のを繋いで……」
リゲルの指が、宙を滑る。ほんとうに星をなぞっているわけでもないのに、ライラにはそのダイヤモンドのかたちがわかった。
「で、あれが『リゲル』」
しかし指されたものには疑問を覚えた。その星は白く見えたのだから。
「……オレンジじゃないよ」
てっきりオレンジ色、というか、琥珀色の星だと思っていた。そういう色だからリゲル、星ではなく今ライラの隣にいるひとは、琥珀色の瞳を持っているがゆえに、その名をつけられたと思っていたのだから。
不思議そうに言ったライラを、リゲルはおかしそうに覗き込んできた。
「オレンジの星だなんて言ってないだろ」
「だってノートには」
「あれは絵だから。大体、あれは全部オレンジで描いてあっただろう。ほんとうは全部違う色だ」
そんなやりとりをして、教えられたこと。
「白く見えるだろうがほんとうは、青を帯びた白だっていうんだ」
今度ぽかんとするのはライラのほうだった。
「偶然かもしれんが。お前の色だな」
ライラの持つ、髪色。星の『リゲル』はこんな色をしているというのか。
勿論、星の色など肉眼では見えない。けれど表現するに、青と白と言われてしまえば自身の髪色としか思えなかった。リゲルとてそういうつもりで言ってくれたのだろう。
やさしく言われて、ほわっと胸の内があたたかくなった。
彼を示す名が自分の色をしていること。まるで寄り添うことを赦されて祝福されているようだと思った。
その気持ちのままにもう一度身を寄せる。つめたい空気の中、リゲルの体温はあたたかい。
「あのね、リゲルのあの詩」
目を閉じながら、ライラは言う。
「今はまだ構想中で拙いだろうけど。聴いてくれる?」
「ああ、聴かせてくれ」
頭の中にはメロディがあった。それを小さな声で、歌っていく。
これはまだ自己流。自分勝手に考えたものに過ぎない。
でもここからうつくしい、本物の歌に仕上げるのだ。
リゲルの作った、詩。
いつか一等星のように眩しい彼と、同じくらいに輝かせたい。
そして歌が完成したそのときには、自分も名前の由来。やさしい音を紡ぎ出す琴(ライラ)のようにその歌を奏でたい。
その音はいつか、彼の生み出した詩と混ざり合って、星が光るような素敵なうたになることだろう。
(終)
「え、どれ?」
冬のダイヤモンド。
いつかのカフェ、ノートをプレゼントしたときにリゲルが話してくれたことだ。
「ええとな、あそこのあれ。見えるか。あれとな、その少し下のを繋いで……」
リゲルの指が、宙を滑る。ほんとうに星をなぞっているわけでもないのに、ライラにはそのダイヤモンドのかたちがわかった。
「で、あれが『リゲル』」
しかし指されたものには疑問を覚えた。その星は白く見えたのだから。
「……オレンジじゃないよ」
てっきりオレンジ色、というか、琥珀色の星だと思っていた。そういう色だからリゲル、星ではなく今ライラの隣にいるひとは、琥珀色の瞳を持っているがゆえに、その名をつけられたと思っていたのだから。
不思議そうに言ったライラを、リゲルはおかしそうに覗き込んできた。
「オレンジの星だなんて言ってないだろ」
「だってノートには」
「あれは絵だから。大体、あれは全部オレンジで描いてあっただろう。ほんとうは全部違う色だ」
そんなやりとりをして、教えられたこと。
「白く見えるだろうがほんとうは、青を帯びた白だっていうんだ」
今度ぽかんとするのはライラのほうだった。
「偶然かもしれんが。お前の色だな」
ライラの持つ、髪色。星の『リゲル』はこんな色をしているというのか。
勿論、星の色など肉眼では見えない。けれど表現するに、青と白と言われてしまえば自身の髪色としか思えなかった。リゲルとてそういうつもりで言ってくれたのだろう。
やさしく言われて、ほわっと胸の内があたたかくなった。
彼を示す名が自分の色をしていること。まるで寄り添うことを赦されて祝福されているようだと思った。
その気持ちのままにもう一度身を寄せる。つめたい空気の中、リゲルの体温はあたたかい。
「あのね、リゲルのあの詩」
目を閉じながら、ライラは言う。
「今はまだ構想中で拙いだろうけど。聴いてくれる?」
「ああ、聴かせてくれ」
頭の中にはメロディがあった。それを小さな声で、歌っていく。
これはまだ自己流。自分勝手に考えたものに過ぎない。
でもここからうつくしい、本物の歌に仕上げるのだ。
リゲルの作った、詩。
いつか一等星のように眩しい彼と、同じくらいに輝かせたい。
そして歌が完成したそのときには、自分も名前の由来。やさしい音を紡ぎ出す琴(ライラ)のようにその歌を奏でたい。
その音はいつか、彼の生み出した詩と混ざり合って、星が光るような素敵なうたになることだろう。
(終)