約束〜二人で帰ろう〜
口にはられたガムテープも、腕や足を縛っていたものも全部外され、代わりに手錠をかけられて腰に鎖が巻きつけられる。鎖の長さはたぶん扉まで届かない。

「あ、あなたたちは一体誰なんですか?私の家にお金なんてありませんよ?」

震える声で、私は四十代くらいの男性と女性、そして二十代くらいの男性に言う。

身代金目的の誘拐なら、私を誘拐するのは間違っている。私の家は普通の家だ。

「金じゃない。お前の母親と俺の息子に用がある」

四十代くらいの男性がそう言った刹那、私はお母さんが話してくれたことを思い出す。

それは、お父さんとお母さんが再婚してしばらくしてからのことだった。好きな人ができたと私が言った時、お母さんが話してくれた。

お兄ちゃんの父親は、お母さんが昔付き合っていた男性だった。しかし、お母さんが妊娠したとわかった途端、「本当に俺の子?」と言いそのまま別れさせられたらしい。お母さんはそのままお兄ちゃんを産み、一人で育ててきた。元彼氏とは連絡は取らなかったし、相手も取ってこなかったとか……。
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