私の上司は、イケメン住職様!?~9/19に大幅修正済み~
奥さんは、それでも必死に訴えてきた。
俺は、小さく首を振るう。
そうじゃない。それだけでは意味がないんだ。
「ダメなんです…決められた命は、
逆らう事は出来ない。幼くても
爽太君は、立派に務めを果たしました。
爽太君は、あなたの事が今でも大好きなんです。
そしてあなたも…ただ、お互いの想いが強過ぎると
爽太君は、成仏が出来なくなってしまう」
想いが強いければ強いほどそれは、相手を縛り付ける。
成仏するための力を抑え込んでしまう。
現に爽太君は、成仏が出来ずに
母親の元から離れる事が出来ないでいる。
爽太君を見ると泣きながら
『僕…我慢するから。もっと…いい子になるから
ママを…助けてあげて…』と訴えてきた。
この子が本当に助けて欲しいのは、自分じゃない。
自ら時間を止めて動けなくなった母親を
助けて欲しかったのだ。
自分の死を受け入れる代わりに……。
こんなに小さな年齢なのに。
俺は、歯痒さと苦らしさを痛感する。
「それは、新しい生命になる事も出来なくなりますし
爽太君のためにもなりません。彼の気持ちは、
ずっと〝ママ大好き。だから泣かないでね〟と
言っています。あなたがそばに居させたい気持ちは、
分かります。私は、成仏させる事が出来ますが
どうなさいますか?」
すると泣きながら奥さんは
「爽太を…よろしくお願いします」と言ってきた。
成仏させる事を選択してくれた。
辛い…選択肢をさせてしまった。
奥さんの心の中は、必死に格闘していた。
例え幽霊でもいいから我が子にそばに居て欲しいと
想う母心。しかし、それだと爽太君のために
ならない事も知っている。
だから誰よりも苦しみ……辛い選択肢を選んだ。
これも我が子を想う母心。
「分かりました。
なら、始めたいと思います」
俺は、グッと気持ちを抑えロウソクを
取り出すと火をつける。
そして、小さい方の数珠をカバンから取り出した。
これは、何処にでもある普通の数珠だ。
手を合わせてお経を唱え始めた。
この選択肢が本当に正しかったのか俺には分からない。
だからと言って寿命を延ばす事も出来ない。
こういう時に自分の無力さを痛感する。
すると爽太君は、俺に語りかけてきた。
『おじちゃん。ありがとう……』
爽太君……。
『あのね。ママに伝えてね?
〝お兄ちゃんになるよ…僕。
ママきっともう寂しくないね〟って…』