花のようなる愛しいあなた
「秀頼さま!!!!!」
秀頼の部屋の前にすごい剣幕で松がやって来た。
千姫からは
「事情を聞いたし納得しているから騒ぎ立てるな」
と言われはしたものの、松としては到底納得ができるものではなかった。
一言言ってやらないことには気が済まない!!

「待て!何の用だ」
重成が松を制する。
「離して!秀頼さまに用があります!
「用件は何だ?」
「!!」
何て白々しい言い方なのだろう。
秀頼も変わってしまったが、重成もよそよそしく冷たくなってしまっていた。
「秀頼様はお忙しい。
言えない用件なら引き継げない」
松は込み上げてくる怒りを何とか鎮める。
「千姫様が具合を悪くして臥しておられます」
「…そうか」
「今朝のニュースを聞いて真っ青になってうずくまってしまったのです」
「お伝えしておく。
良い医者を手配させる」
何その他人行儀な上から目線!
あれだけ家族同様に幼少期を共に過ごした仲じゃない…!!
もう、松は感情を止めることができなかった。
「何なんですか、その返事!!!
秀頼さまのせいではありませんか!
見損ないました!
お姿が見えないから公務が忙しいのかと思いきや、女を囲ってたなんて!!
千姫さまを大事に考えてくれてると信じてたのに、こんな裏切りにあおうとは!
…思えば少し前に歌会やら続いた時にキレイどころを侍らせてらっしゃいましたもんね?
デレデレしちゃって…!!」
「うるせぇな!
お前に何がわかるんだ!
あの人が好き好んでした事だと思うのかよ!
…家のために跡継ぎ作れって…
急げって急かされて。
あの人は不条理な自分の運命を受け入れてひたすら役に徹しようと自分を押し殺して耐え忍んで、努力し続けてるんだよ!
あの人が私利私欲に走ってるのを見たことあるのか!
誰が好きでもない女抱きたいと思うかよ!!!」
「現に抱いたから子どもが生まれたんじゃない!!」
「お前…大坂に来た頃はオシメ付けてたくせに…いつの間にそんな言葉覚えた…」
「うるっさいわね!!」
「とにかく!
あの人のことを何も分かってないくせに文句ばっかり言ってんじゃねえよ!」
「あんたこそ、何の説明もなしにいきなり放置されて無視された姫さまの気持ちを少しでも考えたことある訳!?
真っ直ぐにひたすら秀頼さまを信じて向き合おうとしてる!
その純粋な想いを踏みにじらないでよ!!
姫様だってずっと我慢し続けてる!!
わがままなんて言ってない!
泣きたくても泣いちゃいけないと思って必死に耐えてる!
今日だって倒れ込んだのに秀頼さまの迷惑になるからって我慢してる!!!
何なのよ!!!
バカにすんのもいい加減にしなさいよ!!!」

ガラッ。

秀頼の部屋の襖が開いた。
「え?
お千ちゃんが倒れた…?」
久しぶりに姿を見せた秀頼に、松は文句を言ってやろうと思っていた。
しかし言えなかった。
青ざめた秀頼の表情がどれだけ千姫を心配してるかを物語っていたからだ。
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