花のようなる愛しいあなた
あの時。
そう、あの宴の時。
九条殿は色々言っていた。

そもそも豊臣家が今厳しい立場にあるのは、支えてくれる親戚がほぼいないというのも一つの要因だということ。
だから、僕は成人したら早いうちから後継を作らねばならないこと。
姫が産まれたならば良い教育を施し、朝廷に入内させること。
姫は何人いても構わない。
有力な譜代大名家に嫁がせ、国力を増強することなど…だ。
僕は酒に酔っていたのもあるけど、あまり自分事とは思えず、ぼんやり聞いていた。

その夜、乳母の美也に案内された寝所に入ると、女性が座って待っていた。
「今宵はよろしくお願い致します」
深々と頭を下げたのは、九条殿と一緒にやって来ていた由衣姉だった。

「…え…?何で…?」
僕は驚いてそれしか言えなかった。
「今宵は秀頼様の真の元服の儀を執り行うとのこと。
千姫様はまだ貴方さまを受け止めるだけのお身体が出来上がっておりませんので、私が添臥(そいふし)を務めさせてきただきます。
よろしくお願いします」
「え…でも…」
「秀頼さまは私のことお嫌いですか?」
「そんなこと、ある訳がない…」
「良かった。
昔から、目を逸らされる事が多かったので。
…少し不安でした」
「そんなことない…」

結衣姉は憧れの人だった。
完姉が大暴れしてるのを後ろで微笑みながら見守っていた。
いつも僕たちに寄り添って見守ってくれてた暖かい人。
家族に近い大切な人ーーーーーー。

けれど結衣姉が僕に触れた瞬間、
何かが吹っ切れた。

その後はあまり記憶がないけれど、
僕たちは衣服を脱ぎ捨てて眠っていた。
愛情が込み上げてくる。
もっと大切にする。
憧れの人ーーーーー…
大好きだ。

そっと髪を撫でる。
僕なんかよりずっと大人だと思っていたのに
こうしているとあどけない少女に見えた。

まもなく罪悪感が襲って来る。
僕には妻がいるのに…。
あの子を裏切るようなことをしてしまった。

妻…?

あの子は可愛い。
大好きだし
大切にしたいと思うし
嫌われたくない。
けれど
恋愛感情とは違う。
何だろう
妹というか…。

目覚めた時に由衣さんはもういなかった。
あれは夢だったのか?
いや、そんなことはない。
確かに僕は彼女を抱きしめた。

あの夜が明けるとすぐに彼女は九条父子と共に京都に帰ってしまったようだった。
引き留める間もなかった。

誰も何も言わない。
誰がどこまで何を知っているのかわからない。
けれど
それを聞くのはものすごく恥ずかしいことのように感じた。
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