花のようなる愛しいあなた
私以外にあんな表情を見せて欲しくない、
千姫はそう思うのと同時に
秀頼はやっぱり優しい男性だったんだと感じてホッとしている。
我ながら矛盾してるとは思う。


千姫は多喜と一緒に淀殿の部屋を訪れた。
「な、何よ、お千…!
文句でも言いに来たのね…?」
淀殿の顔色は蒼白く脂汗をかいて手が震えている。
「どうして知らせてくれなかったんですか」
「…言ったら邪魔するでしょ…」
「良い気はしないですけど」
「江に言いつけたりするでしょ…」
「お義母さま!!
私は豊臣家の嫁です。
秀頼さまの妻です。
あなたの娘です。
当主の正妻としてお家のことを第一に考えるのは当然です!
なのにお義母さまは私のことを信用してくれなかった。
これは私に対する裏切りです!
許せません!」
「許せなかったらどうするの!!
と、徳川に言いつける気!?
私を処罰する気…!?」
淀殿はヒステリー気味に叫ぶ。
けれど、震えていた。

「そうですね、一生禁酒してもらいます」
「そ、そんな…!!!」
千姫は少し微笑って優しく淀殿の手を取る。

「私は秀頼くんが好きです。
お義母さまのことも好きです。
豊臣家もこの大坂城も大好きです。
徳川家の血は引いてるかもしれないけど、
もう江戸でのことなんて
あんまり覚えてないし、
私に沢山教育受けさせてくれて賢く育ててくれたのは、お義母さまです!」

そう、寧々さんたちからプラスアルファで教育を受けはしたけれど、根底として淀殿やおばば殿が組んだ教育プランがあった。
基本の教育がしっかりしていたから、物事がスムースに理解できるようになっていたし、自分の考えも自分の言葉で表現できるようになった。
中には「女であるから」教育の機会を奪われ、自分の感情すら自分で理解できず、男の奴隷として一生を送らざるを得ない女性も多くいる。
幼い頃は座学が面倒くさいとか思っていた千姫だが、成長してこの事がどれだけありがたいことか実感する。

「私は豊臣家のために全力を尽くすつもりです。
だから2度と私に黙ってこんな重要なことを勝手に決めないでください」
「言い切ったわね。
強情で情が熱いのね。
徳川の人間のくせに」
「私には浅井と織田の血も流れてますから。
強情なのはあなたと同じですよ、お義母さま」
「言ってくれるじゃないの…」
淀殿の表情が少し緩んだ。
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