花のようなる愛しいあなた
今から14年前の文禄5(1595)年のことーーーーー。
秀吉の甥である豊臣秀次が謀反を企てたという騒ぎがあった。
長らく子供ができなかった秀吉にとって、秀次は後継者として大切にされたのだが、その恩をあだで返す仕打ちに秀吉は大激怒した。
真偽のほどはわからない。
しかし秀吉の怒りは収まらず、秀次の妻子やその家族そして家臣やその家族たちまでもが処罰の対象となり打ち首となった。
一族郎党皆殺しというやつだ。
まだ乳飲み児だった姫やまだ床入りすらしていない側室までもが対象になった。
重成の父の木村重玆(しげこれ)は、聚楽第(じゅらくてい)の家老を務めていた秀次の重臣であったので、当然処刑されることとなった。
重成の兄の高成も共に処刑された。

追求の手は当時2歳だった重成や美也にまで及ぶ。
美也は秀頼の乳母だったので、秀頼や淀殿と共に伏見城にいた。
美也に責任があるはずもない。
しかし怒りで我を忘れてる秀吉にそんな当たり前のことも通用しなかった。
秀吉が怒り狂って美也を差し出すように迫った時、2歳になったばかりの秀頼は美也に抱きついて離れようとしなかった。
離そうとすると異常なまでに泣いた。
淀殿は毅然として言った。
「あなたはお(ひろい)様(秀頼の幼名)がこんなに泣いてるのを見て平気なのですか!
どうして嫌がることをするのですか!
このストレスのせいで、病気にでもなったらどうしてくれるんですか!
お可哀想に!
お拾様にはこの乳母と乳兄弟が必要なのでございます!!」

その4年前、淀殿は秀吉との長男である(すて)を数え年3つで亡くしている。
あんなに悲しい思いは二度としたくない。

55才にしてようやく授かった愛しくて愛しくてたまらない息子がこの乳母を助けろと必死に訴えてる。
秀吉は大号泣した。
「茶々、そなたの言う通りじゃ…。
この父が悪かった、お拾殿、乳母とその息子に危害は加えぬ…。
だから元気に育ってくれ。
お願いじゃ…」
秀吉は何度も何度も我が子に謝った。



「秀頼様と淀様は命の恩人だからな。 
俺は命を懸けてお二人をお守りする。
この気持ちは誰にも負けねぇ」
「私だってこの気持ちは負けるわけにはいかないわ。
じゃぁ、重さんはライバルってことで許してあげる」
「何だよ、それ。
でも、姫様のナンバーワン侍女に嫌われたままだと秀頼様に迷惑かけちまうからな」
< 116 / 170 >

この作品をシェア

pagetop