花のようなる愛しいあなた
城内案内が一通り終わると、おばば様によるオリエンテーションが始まった。
おばば様は淀殿の乳母だったので、淀殿が産まれたときから傍にいる。
今は秀頼の教育係も兼ねていて、何だか校長先生みたいな感じである。

「とりあえずこれが明日からの時間割です」
それには、
・読み書き
・礼儀作法
・ファーストレディとしての心構え
・和歌
・琴や琵琶などの雅楽実習
・香道
・薙刀の練習
などの学習スケジュールがびっしりと組み込まれていた。

「ちょっと詰め込みすぎなんじゃないでしょうか・・・」
多喜の苦言におばば様ははぴしゃりと言う。
「これでも足りないくらいです!
豊臣家のファーストレディになるためには必要不可欠なことですよ!
だいたい6つにもなって読み書きの一つもできないって徳川家の教育はどうなってるのかしら!」
「でも女子(おなご)ですからそこまで急いで読み書きを覚えなくても…」
「何を時代遅れなことを言ってるの、多喜!
女子だからこそ教育をしっかり受け、秀頼さまをお支えするのではありませんか!
ただ美しいだけ、ただお子を産むためだけだったら側室で十分。
天下を支える右腕とならねばいけないのです。
日本(ひのもと)の将来は我らの教育いかんに関わっているのですよ!
甘ったれたことを言ってる場合じゃないの!
わかったわね!?」
「はいっ!!!」
多喜は感銘を受けたようだった。
大坂城には女性が多く住んでいた。
そして男性に負けない発言権を持っていた。
それは淀殿が実質的な大坂城の城主だったことが大きい。
女性は強く気高く賢くあるべきという淀殿の方針によって、松や歳の近い侍女たちも一緒に教育を受けられることとなった。
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