花のようなる愛しいあなた
「中井とかいう大工、田畑のサイズまで計っていきやがりました。
何なんですかね!」
「そうそう、最近畑から作物が盗まれることがありましてね」
千姫たちにも毎日のようにそのような報告が入る。

佐奈さんが秀頼の第二子を出産したのはそんな中のことだ。
出産は「穢れが多いから」と一般的には離れの掘立小屋などに追いやられることが多いが、そこは女性が多い大坂城である。
水場には近いが明るくキレイで快適な部屋が分娩室として用意された。
政務所とはとても離れているので叫んだところで声は届かない。
秀頼や淀殿は、中井をはじめとする徳川家からの使者や身内でないものに気取られないように極めて通常を装いつつ客人対応や政務に励んだ。
千姫や松はなるべく佐奈さんに付き添い、励まし続けた。

おばば様は何人もの出産に立ち会って来ただけあって、冷静だし指示も的確だった。
「そこの者たち、井戸から水を汲み樽に溜めるのじゃ」
「そこの者は湯を沸かして適温を保ち続けるよう管理せよ」
「そこの者は布を沢山用意せよ」

「うっっっっ…痛っ……!!!!!」
「佐奈さん!!」
「頑張って…!!!」
「慌てるでない、皆落ち着くのじゃ」

「…っ…うああああああああっっ…!!!!」
「佐奈さん!!!」
「佐奈さん!!!!!」
「頑張れ!!!」
「もう少しだよ!!!!!!!!」

母になるということはこんなに壮絶で命懸けの事なのか…。
無事に元気な女の子が産まれた時は知らないうちにみんなが泣いていた。
この子を何があっても守らなくては…。
大坂城の女たちは結束を高めた。


「姫様、ずっと付き添ってくださってありがとうございました。
心強うございました」
千姫は首を振る。
「元気や勇気をもらったのは私の方だよ。
この子達が安心して育っていける環境を絶対作ってみせる」
佐奈さんは幼くも健気で気丈な女主に敬意を表した。
「姫様。
この子に名前を授けてくださいませんか?」
「え!?私が?」
「私と姫様とこの子の絆にしたいのです。
いかがでしょうか」
「わかりました!ちょっと考えさせてください」
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