花のようなる愛しいあなた
淀殿も千姫の部屋にやって来た。
「お初、久しぶり。
まぁ、変わり果てた姿になって…」
淀殿は尼僧姿の妹を見て何とも言えない表情だ。
「夫を亡くしたんだから普通でしょ」
「……」
「てか、茶々姉は何でいつまで経っても落飾しないの?」
「な、何で私が尼なんかにならなきゃいけないのよ!
あんな奴のために」

地位のある男性と結婚した場合、寡婦になった女性は出家して主人の菩提を弔うのが普通だ。
死んでしまっても一生心はそばにいるということでもあり、他の男に再嫁しないという意思の表れでもある。
地位の低い側女などは別として、淀殿は正室と同じくらいの破格の待遇を受けた特別な存在だ。
同じく寵愛を受けた竜子さんも落飾しているのに淀殿だけ頑なに黒髪を蓄えているのは不自然に映った。


「もう、十分でしょ」
「何が十分なのよ」
「十分愛してもらったし、良い暮らしもさせてもらったでしょ。
もう、許してあげなよ」

身分が高い者と死に別れても落飾しない場合もある。
若過ぎてまだ結ばれてない場合や
夫が謀反人などの反逆者である場合などが挙げられる。

「許せるわけないじゃない…!
死んだからって罪が消えると思ったら大間違いだわ!
私はあいつを一生許さないって決めてるの!」
「…可哀想な人…」
「あいつの味方する気!?」
「茶々姉、あなたのことよ」
「!!!」

そうよ、私は可哀想なのよ。
何を今更言ってるのよ…。
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