花のようなる愛しいあなた
「関係者全員処刑しろ!!!
絶対許さん!!!」
後陽成天皇は指示を出したが、皆が難色を示した。
その関係者というのは、今朝議にいる者たちの親戚であり、友人であり、同僚であるからだ。
幸家も親戚やら部下たちから
「お願いします、あいつ助けてやってください」
と毎日のように嘆願されている。

武家伝奏の広橋兼勝の娘もその処分対象者に名を連ねている。
「お願いします、何でも致しますから!
娘を助けてください!!」
広橋は自分よりも遥かに身分の低い板倉に土下座をして頼み込んだ。

主上を説得して宥めるのは関白をはじめとする公卿たちである。
「何卒穏便にお願いします」
「そもそも公家の者を処刑するなんて今まで例がございません」
犯罪者の肩を持つような発言の数々に後陽成天皇は我慢がならない。
「流罪にしたって今回みたいに戻って再犯に及ぶだけだろ!
大体よ、やって良いことと悪いことの区別くらいつくだろ!!
公家だから悪いことしてもお咎めなしっておかしいだろ!!!
気弱な態度取ってると舐められるだけだ!
俺は絶対許さねぇ!!」
「今度はしっかり監視させますから!ね?」
「それに公家を処刑したとなれば、家同士の確執が生まれて朝廷がめちゃくちゃになってしまいます」
「うるせぇ!!!家の確執と国家転覆の危機とどっちが大切なんだ!!!」
幸家たちが説得に苦労していると、今度は天皇の母である晴子さんや弟君の八条宮智仁親王などもやって来て説得に当たる。
「こんなみっともない話、本来なら水面下で内内に処分すべきものでしょう?
それをこんなに騒ぎ立てて…はぁ…」
「しかし母上!
これでは朝廷の示しがつかないではないですか!!!」
「貴方が騒げば騒ぐほど朝廷の威厳が揺らぐというものです。
少し落ち着きなされませ」
「そうですよ、兄上。
ここは寛大なお気持ちを」
「何なんだよ!みんなして!!!!!!!」
後陽成天皇は怒りすぎて目を回して倒れてしまった。

結果的に主犯である猪熊教利と後宮に出入りを許されている医者の兼康が処刑、後の10人は流刑となり「猪熊事件」は一応の解決を見せた。
主上の意見が殆ど反映されない生ぬるい処遇に市民たちは冷ややかに見た。
「主上も落ちたなー。
結局誰も言うこと聞いてくれないなんて」
< 127 / 170 >

この作品をシェア

pagetop