花のようなる愛しいあなた
豊臣家と徳川家がざわざわし始めている年末の12月23日。
宮中では政仁親王の元服の儀が粛々と執り行われた。
幸家は烏帽子親として加冠役を務めた。

政仁親王は成人したと言ってもまだ幼さの残る14歳。
背も低く童顔なこの東宮がこの先化け物のような徳川家やその周辺の者共たちとやり合っていかねばならない…。
誰もが不安を抱えていた。
「幸家…やっぱりおれ不安だよ…」
「東宮様、私もです」
「そんなこと言うなよ~、幸家」
「けれど私・幸家はずっと東宮様の御味方でございます。
近衛殿も鷹司殿も参議の者たちも皆同じ気持ちでございます。
力及ばないことも多々ありましょうが、共に力を合わせ模索して参りましょう」
「ありがとう…。
幸家、これからはずっとおれのそばにいてくれるか?
父上のそばじゃなくて」
「はい…力の限り」
政仁親王は少し落ち着いたようだった。

「そういえばさ、父上が譲位した過ぎて勝手に徳川の末娘を入内させる約束しちゃっただろ?」
「あ…あぁ、そうですね…」
「すっごいイヤなんだけど!」
「ええと…」
「だって、あのくそジジイの孫だろ?
絶対ロクでもないじゃん!」
「まだ3つか4つの子どもですから教育如何ではどうにでもなりそうですよ?」
「おれガキの子守とかしたくないんだけど!」
「入内するのはまだまだ先ですよ…?」
「絶対ブスそうだし!!」
「まぁ秀忠殿はそうイケメンではないですけど、母君はお美しいそうですよ。
ほら、私の妻は大層な美女ですし」
「何だよ、また嫁自慢かよ」
「父君は違えども、私の妻の妹ですからそこそこお美しく育つのではないでしょうかね?」
「あっそ!」

それから政仁親王は間を空けて恥ずかしそうに言った。
「あの…さ、まさか徳川の娘が入内するまでの間、ずっと…あの…
女子がいない生活を強いられるとか…ない…よね…?」
「ははは、さすがにそれは」
「あぁ、良かった~!!」
「女官たちも美女揃いですのでそこはご期待を」
「まことか!」
「あまり羽目を外し過ぎないようにお願いしますね」
「おうっ!」
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