花のようなる愛しいあなた
一方、九条完子は久しぶりに木の上に登っていた。
感覚が鈍ったかと心配していたが、まぁ何とかなるものである。
「ちょっと完子さん、何やってるんですか。
やめてくださいよ」
幸家が止めにやって来る。
「だって外には出ちゃいけないって言うし、
屋根にも登っちゃダメだって言うし、
高見櫓は作ってくれないって言うんじゃ
木に登るしかないじゃない!」

秀頼の上洛を心待ちにしている公家衆は多かった。
しかし家康は公家たちに秀頼の出迎えを禁じた。
「ジジイが孫の婿に会うだけじゃ。
大事にはしとうないのじゃ。
それに即位式が目前じゃ。
色々と準備もござろう。
我々のことはお構いなく、仕事を優先してくだされ。
お気遣い感謝いたす」
家康には、今更豊臣が上洛したところで誰にも支持されてないことを自覚させ、徳川の下に付くことを認めさせようとする狙いがあった。

そんな訳で九条家に関わらず自邸から豊臣の行列を見ようと塀や垣根の隙間を覗いたり屋根に這いつくばったりと各家様々な工夫を凝らして公家たちは頑張っている。

「そんなこと言ったって、弟がせっかく来るんですもの!
隠れてだって見るわよ!」
「すみませんねぇ、我々の力が及ばないばかりに」
「てか、あのジジイ、いつ死ぬのよ!?」
「当分死にそうにないですね…
私の読みが甘かったです」
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