花のようなる愛しいあなた
「遠路はるばるお越しくださったお礼といたしまして、私からも何か贈らせてください」
千姫は2人に言った。
「え…でも」
「豊臣家から徳川家ではなく、
私、千姫から義直殿と頼宣殿個人に何かプレゼントさせてもらいたいんです」
「…じゃぁ…」
義直は飾ってあった掛け軸を所望した。
「じゃあ、おれはあれとこれと…あと、これもほしい!」
頼宣はこれでもか!というくらい色々注文してみた。
「わかりました」
千姫は嬉しそうに快諾した。
「まことか!」
ちょっと困らせてやろうと思っていた頼宣は少し驚いた。
絶対ダメと言われると思ってた訳だが思わぬ事運びに嬉しそうにお礼を言った。
「えっ、じゃあおれも!」
そんな頼宣の姿を見ていたら義直だって色々と欲しくなる。
「何なりと言ってくださいな。
こうして身内と懇意になれるのは嬉しいことだわ」
千姫は嬉しそうに微笑んだ。

沢山のお土産をもらった2人は、お目付役の加藤と本多に釘を刺すのを忘れない。
「父上にはないしょだぞ」
「はいはい」
「何だ、そのたいどは!
ハイは一回だぞ!」
「はいよ」
本多は義直の荷物からドロップの入った瓶を持ってきた。
「いただいてばかりでは申し訳ないですから、義直様もお返しされてはいかがですか?」
「えっ…これはおれの菓子だぞ…」
「義直様!」
「…」
義直はちょっと悩んだ後に、ちょっと名残惜しそうに言った。
「これは南ばんのオランダからとりよせたドロップなる菓子だ!
お礼にあげる」
本多が菓子の入った瓶を秀頼に差し出す。

え………
もしかして…これ…か…!?

加藤は目を見開いた。
先日のあの会見以降、加藤の体調は悪化する一方だった。
証拠もないし、滅多なことは言えない。
しかしあの会見で何か悪いものを食べたとしか考えられなかった。
加藤はあの日食べたものとを必死に思い出していた。
しかしこの飴は子供たちが普通に触れるものだった……。
そうか…子供達が食べないように
敢えて白だけ不味い味に仕立てていたのか…?
いやしかし…。
でも用心に越したことはない…。

加藤は義直と頼宣の後ろで秀頼に合図を送る。
そのサインを読み取ったか重成がコホンと咳をした。
「ありがとうございます。
後ほど皆でいただきます」

義直と頼宣は本多に率いられ、京都に帰って行った。
加藤は体調が戻るまで国許に帰るということで、そのまま西に向かった。

そしてそのまま船の中で体調が悪化して帰らぬ人となったーーー。
加藤清正50歳。
悔いの残る最期となった。
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