花のようなる愛しいあなた
その後、義直は名古屋城の建設に興味を持つようになった。
あんな感じにしたい…
いや、あれよりも立派なものを手に入れたい
という思いは大きくなる一方だ。
義直が希望をあれこれ入れたことで工事は色々と滞った。
名古屋城は天下普請として各大名家から人足や金を出させ作らせている。
「家康様のためならわかるが何でその子供の面倒まで見なきゃいけないんだよ!
ウチだって貧乏なのに…!!」
と普請を命じられた大名家からは不満が漏れる。
「バカ、余計なことを言うな!」
「聞かれでもしたらどうするんだ…」
そう、聞かれてしまえばお家取り潰しや最悪戦になってしまうかも知れない。
いやいやながらも従う家は数多かった。

豊臣家にも天下普請の依頼が来た。
「どうします?」
徳川家は一応「命令」ではなく、「お願い」という形を取っている。
「こないだ会って話したからって何て図々しいのかしら…!」
淀殿はやはりご立腹だ。
「まぁお金には困ってないけど…何でもかんでも出せば良いって話でもないからね…」
秀頼が思案していると治長が提案する。
「そうしたらこうしましょう!
代わりに大仏復興にかかる資金提供をお願いしてみるのはいかがでしょう?」
「一応共同事業ですものね!
大工と人足は出してくれてるけど、
費用全額豊臣うち持ちってのはおかしいわよね!」
淀殿がそのような内容の返事を寄越すと徳川方は
「では相殺致しましょう」
とその話はなぁなぁになった。

片桐はこれで徳川家との関係が悪化してしまうのではないかと危惧したが、日本のあちこちで大変な事態が起こっており、幕府はそれどころではない状態が続いていた。

その年の秋、三陸沖や会津で大地震が幾度も起こった。
それに伴い大津波が海岸を襲い、山崩れが里を襲った。
数え切れないほどの死者が出た。
幕府は役人たちを派遣して、調査や復旧支援にあたった。

長崎沖では、有馬家とポルトガルの商人たちが揉めて交易が止まってしまった上にバテレン達と戦になりそうな勢いだ。
オランダやイギリスとの交易が調子に乗ってきた今、スペインやポルトガルなどの布教という名の侵略者達との交易を続けることはもはや危険な行為だった。
外交政策も方向を定めねばならない。

徳川家は問題を一つずつ解決していきながらますます大きくなった。
大きくなってくると、今までのように家康や側近達の目の届かないところで不埒者が現れるものである。
徳川家の名前を使い私利私欲に走るものも増えたり、一番の側近の座を巡って家臣団の中で出世争いや潰し合いが顕著になって来た。
一枚岩になっていかなくてはならない大切なこの時に……。
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