花のようなる愛しいあなた
6月。
いよいよ完姫の輿入れの日となった。
12歳になった完姫はすっかり大人の女性に見えた。
名前も公卿風に完子(さだこ)と改めた。
「完姉さま、すごくきれい」
「ありがとうお千ちゃん。
私の可愛い妹、短い間だったけど一緒に過ごせてよかった」
「完姉様、おめでとうございます。
行ってらっしゃいませ」
「ありがとう、私の可愛い弟、いつでも力になるからね」
「ありがとうございます」
侍女の由衣も完子と共に九条家に向かう。
秀頼は由衣の方を向いて言った。
「…寂しくなります、どうかお気をつけて」
「こちらこそ、色々良くしていただいてありがとうございました。
秀頼さまもお身体大切になさってください」
「姉上をよろしくお願いします」
「由衣姉が一緒なら完姫も大丈夫だろ」
重成が後ろから入ってくる。
由衣はちょっと強めの口調で言う。
「重成殿も完姫様がいなくなって寂しいのでは?
後悔する前に一言ご挨拶しておきなさい」
「…はい……」
重成は完子の前に行って最後の言葉を交わす。

「猫かぶりに疲れたら俺が攫いに行ってやるから…」
俯きながらボソボソ言う重成は泣くのを堪えているようにも見えた。
「バーカ、あんたみたいな子供が何言ってんのよ」
そう言う完子はものすごく優しい表情をしていた。
「幸せになれよ…」
「あんたも良い男になりなさいよ」
重成は黙って頷いた。
完子と由衣は秀頼と千姫に一礼してから淀殿のもとに行った。

「完子、いってらっしゃい」
「お母様、今までお世話になりました。
豊臣家の長女としてしっかりお家の架け橋となるように努めます」
「…何言ってるのよ…!
しっかりなんてしなくてもいいのよ…幸せになりなさい…!」
淀殿は涙が止まらない。
「幸家様は可もなく不可もなく薄くて当たり障りのないお顔立ちだけど、癒し系で優しい人だからきっとうまくやっていけるから…」
そこはイケメンじゃないのか…と完子はちょっとガッカリした。
「足りないものがあったらすぐに言いなさい。
意地悪されたり嫌がらせを受けたらすぐに言いなさい。
もし、うまくいかなかったら戻って来たって良いんだから…!」
「ありがとう。
お母様もお元気で。
気負い過ぎちゃダメよ」
「うん」
「お酒も飲み過ぎちゃダメよ」
「…うん」
「タバコも吸い過ぎちゃダメよ」
「……うん」
「適度な運動も心がけてね」
「もうっなんなのよっ、ダメ出しばっかり!!」
「…本当、心配なのよ」
完子は淀殿の目をまっすぐに見て言った。
「お母様のことは実の母だと思ってる。
ずっとずっと大好きだからね!!」
「ありがとう、あなたは私の自慢の娘だわ。
絶対幸せになるのよ」

完子と淀殿は最後にぎゅっと抱擁を交わした。
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