花のようなる愛しいあなた
その年の始めに秀頼に朝廷より内示が下りた。
去年、九条兼孝や鷹司信房らが打診していた通り、秀頼は内大臣から、家康が辞し空位になっていた右大臣へと昇格するのである。
豊臣家では皆で喜び、謹んで承ることにした。

秀忠は正二位となり、秀頼の後任として内大臣になることが決まったようだ。
これで秀頼と秀忠は位階が並んだ。
「まぁ…秀頼さまの後任か…仕方ないわね」
淀殿は納得した様子だった。
この叙任により、やっぱり秀頼は秀忠より上の立場にいるのだと世間は判断した。

昨年の正月とは打って変わって平穏な年の始まりに千姫は安堵していたのだが、事態は水面下で目まぐるしく動いていた。


一方、その頃。
「こらこら、危ないですよ」
「だって〜…」
京都の九条邸で完子は木に登り、塀の外を眺めていた。
「一体何が起ころうとしてるのか気になるじゃないですか!」
「では私もそちらへ行きましょう」
九条幸家は細い身体でするすると木に登り完子の側にやって来た。
「幸家さま、やるじゃない」
「まぁ、このくらいはねぇ」

九条家にやって来たばかりの完子はガチガチに緊張して猫をかぶっていたが、どうやら猫かぶりは卒業したようだ。
幸家は顔立ちは可もなく不可もなく薄くて当たり障りのないタイプだが、完子は気に入ったようだ。
なかなか飄々とした人物で、大人ならではの包容力がある。
幸家にとっても、完子のようなタイプは今まで周りにいなかったらしく、この結婚生活を楽しんでいるようだった。

京都の街は兵士たちに取り囲まれていた。
どうやら徳川の兵士たちで、こちらに危害を加えるつもりはなさそうだ。
しかし、こんなに大勢の兵士たちが街中を行進していたら何が起こるかわかったものではない。
お陰で正月早々どこにも行けず軟禁状態である。
「困ったものだねぇ」
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