花のようなる愛しいあなた
「あの時の戦いが秀頼、あなたのせいだとでも?」
「はい、その通りです。
私はあの時何も状況がわかっていないのに片方のみの意見を聞き、感情的に出兵の要請を許可しました。
いえ、私が出兵命令を出しました。
そして沢山の者の命や生活を奪いました。
それぞれの立場によって正義は変わる。
私はそれを知ろうともせず、判断を下しました。
大きな過ちです」
「あの時あなたは6つか7つの子供でした。
仕方ないとは思いませんか?
何もわからない子供を利用した卑怯者たちに騙されたとは思いませんでしたか?」
「いいえ、私の不徳の致すところです。
あの時、焦らずに双方から話を聞く時間を設ければ…謀反と疑われた上杉家に弁明の機会を与えたなら、状況は変わっていたのかなと思います」
「そうですか…。
あの時は色んな陰謀が渦巻いていたから、一概に良い考えとは言えませんが、しかしながら感情的にならずに双方から意見を聞こうというのは良い考えです。
あの時のことを子供だから仕方なかったで済ませずにこうして反省して考え続けるのも良いことです」
寧々さんは言葉を続けた。
「けれど、思いつめるのはやめなさい。
あの時の責任は、それを止められなかった大人たちにこそあります。
あなたは焦らないことです。
焦りは隙を生みます。
隙が命取りとなります。
あなたは11歳にして城の主人であり右大臣に任命されています。
あなたにそれだけの期待がかかっていてそれを支持する人間が多くいるという証です。
自信を持ちなさい」
「しかし…」
「あなたがこのまま精進していき人望と実力を兼ね備えた青年に成長する頃、家康殿はもういません。
家康殿は徳川家の一元支配を目指しているようですが、秀忠殿の実力はそれには及ばないとの評判です。
きっとあなたの助けが必要になってきます。
その時、先ほどあなたが言った二元制へと方向転換して行けばいいのです。
その時まで志を高く持って焦らず努力していきましょう」
寧々さんは秀頼の目を見て毅然として言った。
「はい」
秀頼は少し落ち着いたようだった。

秀頼は姿勢を正し、寧々さんに言った。
「では寧々さま、改めてお願いします。
私がこれから何をすべきかご教示お願いします」
そして深々と頭を下げた。
「……」
「私からもお願いいたします」
大野治長も頭を下げる。
「私からもお願いします」
「私も」
「わたしも」
重成が頭を下げると千姫や松も続けて頭を下げた。

子供たちみんなに頭を下げられて観念したのか、寧々さんは言った。
「はい、はい、わかりました。
ちょっと考えます!」
「本当ですか!」
秀頼は頭を上げ喜んだ。
寧々さんは小さくため息をついた後に治長に指示した。
「修理殿、秀頼の学習内容と時間割をまとめて後で高台院に届けてください。
それと姫君の学習プランも同様です」
「は!」
「計画表を元に何が不足しているのか考えてみます。
追って連絡を入れますので、あまり焦らずにお待ちなさい」
「ありがとうございます!!!」
「あ、それと…」
寧々さんはちょっと小声で付け加えた。
「でも面倒だから淀さんには内緒ね」
「はい」
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