花のようなる愛しいあなた
◇蟻の目◇
暖かくなってきた頃、寧々さんがお忍びで大坂城にやって来た。
5月に来た時よりも随分ラフというか、本当にその辺の侍女と変わらないようなスタイルだった。
「秀頼、"鷹の目蟻の目"という言葉を知ってますか?」
「ええと、物事を多角的に見るということですよね?」
「そうです」
千姫がよくわかってなさそうな表情をすると、寧々さんは分かりやすく説明してくれた。
「物事は色んな立場に立って見ることが大切なのです。
例えば目の前にあるあの木も鷹のように上から広い目で見るのと、蟻のように小さい目で下から見上げるのとではまったく見え方が違うということです」
「なるほど〜!」
「あなたのカリキュラムはよく練られていて帝王学としては素晴らしいですが、
平民の暮らしや考え方などには一切触れられていません。
秀吉が人身掌握術に長けていたのは、蟻目線での考え方も知っていたからです」
「確かに…」
皆が納得したところで、寧々さんはニッコリ笑って言った。
「そこで手っ取り早く平民の気持ちを理解する為に農業実習をやってみようと思います!」
「???」
秀頼は思いがけない内容に少しびっくりした様子だった。
「お千ちゃんも一緒にやりますよ」
「はい!!!」
寧々さんの侍女の孝さんが手際よく鍬やら鋤やらを用意する。
千姫は今まで土いじりはしたこともなかったので、何だかワクワクした。
大坂城の二の丸付近には自家農園が広がっていて、そこの一画を千姫たちは使わせてもらえることになった。
「この種はこんな感じで植えて、この肥料はこうして使うのよ」
寧々さんは丁寧に教えてくれる。
「昔はこんな風にみんなで一緒に畑作業もしたものよ…」
「きゃっっ!!!虫!!!」
見たことのない変な虫にびっくりした千姫は後ろにコロンと尻もちをつく。
千姫の体がぶつかって松もバランスを崩してコロンと尻もちをつく。
土まみれになってる姿が可笑しくて笑いが止まらない。
この日はすぐに育つという葉物を植えた。
「うう、腰痛えーーー」
重成は腰を抑えながら音を上げた。
「思ったよりもキツイね…」
「ほら、そこ!しっかりしなさい!」
孝さんはなかなかのスパルタだ。
秀頼と重成は千姫たちが種植えをしてる畑のすぐそばの一画を耕していた。
「折角なので」開墾する大変さを味わってみたほうがいいということだった。
「普段使わない筋肉使うから結構しんどいでしょ?」
「そうですね…」
秀頼と重成は汗を拭った。
土がふわふわになったところで、千姫と松が別の先程とは種類の葉物を植えた。
「また変な虫だ〜!」
「あっち行け〜」
「これは益虫だから、居て良いやつよ」
「そうなんだー?」
実際に作業をしてみて、秀頼は書物で読んだり人から聞いただけではわからないことというものが沢山あることを実感した。
ひと段落すると寧々さんはまた京都に帰って行った。
「また来月来るからしっかりお世話するのよ」
「はい!!」
それからというもの、千姫たちは早朝にこっそりと畑に集まり、寧々さんに言われた通り毎日雑草が生えてないかチェックして水をあげたりあげすぎないようにしたりこまめに世話をした。
菜葉は姫たちの期待に応えるようにぐんぐん成長して行った。
収穫の時期になった。
寧々さんがまたお忍びでやって来て、菜葉の収穫のやり方を教えてくれた。
小さな畑ではあるが、沢山の菜葉が収穫できた。
早速台所に持っていく。
「ありがとうね、早速これで煮浸しでも作りましょう」
台所長のヨシさんが調理してくれる。
自分たちで育てた野菜は格別の味がした。
けれど、
あんなに頑張ったのにこれだけしか採れないのか…
と千姫は思った。
5月に来た時よりも随分ラフというか、本当にその辺の侍女と変わらないようなスタイルだった。
「秀頼、"鷹の目蟻の目"という言葉を知ってますか?」
「ええと、物事を多角的に見るということですよね?」
「そうです」
千姫がよくわかってなさそうな表情をすると、寧々さんは分かりやすく説明してくれた。
「物事は色んな立場に立って見ることが大切なのです。
例えば目の前にあるあの木も鷹のように上から広い目で見るのと、蟻のように小さい目で下から見上げるのとではまったく見え方が違うということです」
「なるほど〜!」
「あなたのカリキュラムはよく練られていて帝王学としては素晴らしいですが、
平民の暮らしや考え方などには一切触れられていません。
秀吉が人身掌握術に長けていたのは、蟻目線での考え方も知っていたからです」
「確かに…」
皆が納得したところで、寧々さんはニッコリ笑って言った。
「そこで手っ取り早く平民の気持ちを理解する為に農業実習をやってみようと思います!」
「???」
秀頼は思いがけない内容に少しびっくりした様子だった。
「お千ちゃんも一緒にやりますよ」
「はい!!!」
寧々さんの侍女の孝さんが手際よく鍬やら鋤やらを用意する。
千姫は今まで土いじりはしたこともなかったので、何だかワクワクした。
大坂城の二の丸付近には自家農園が広がっていて、そこの一画を千姫たちは使わせてもらえることになった。
「この種はこんな感じで植えて、この肥料はこうして使うのよ」
寧々さんは丁寧に教えてくれる。
「昔はこんな風にみんなで一緒に畑作業もしたものよ…」
「きゃっっ!!!虫!!!」
見たことのない変な虫にびっくりした千姫は後ろにコロンと尻もちをつく。
千姫の体がぶつかって松もバランスを崩してコロンと尻もちをつく。
土まみれになってる姿が可笑しくて笑いが止まらない。
この日はすぐに育つという葉物を植えた。
「うう、腰痛えーーー」
重成は腰を抑えながら音を上げた。
「思ったよりもキツイね…」
「ほら、そこ!しっかりしなさい!」
孝さんはなかなかのスパルタだ。
秀頼と重成は千姫たちが種植えをしてる畑のすぐそばの一画を耕していた。
「折角なので」開墾する大変さを味わってみたほうがいいということだった。
「普段使わない筋肉使うから結構しんどいでしょ?」
「そうですね…」
秀頼と重成は汗を拭った。
土がふわふわになったところで、千姫と松が別の先程とは種類の葉物を植えた。
「また変な虫だ〜!」
「あっち行け〜」
「これは益虫だから、居て良いやつよ」
「そうなんだー?」
実際に作業をしてみて、秀頼は書物で読んだり人から聞いただけではわからないことというものが沢山あることを実感した。
ひと段落すると寧々さんはまた京都に帰って行った。
「また来月来るからしっかりお世話するのよ」
「はい!!」
それからというもの、千姫たちは早朝にこっそりと畑に集まり、寧々さんに言われた通り毎日雑草が生えてないかチェックして水をあげたりあげすぎないようにしたりこまめに世話をした。
菜葉は姫たちの期待に応えるようにぐんぐん成長して行った。
収穫の時期になった。
寧々さんがまたお忍びでやって来て、菜葉の収穫のやり方を教えてくれた。
小さな畑ではあるが、沢山の菜葉が収穫できた。
早速台所に持っていく。
「ありがとうね、早速これで煮浸しでも作りましょう」
台所長のヨシさんが調理してくれる。
自分たちで育てた野菜は格別の味がした。
けれど、
あんなに頑張ったのにこれだけしか採れないのか…
と千姫は思った。