花のようなる愛しいあなた
「ま、見ての通り近いうちに死にそうだろ」
秀康は嗤う。
秀頼は沈痛な面持ちで秀康を見つめる。
「秀康兄さん、毎年沢山のご支援ありがとうございます。
けれど、兄さんの所領はもう豊臣の直轄領ではないはずなのに…
どうしてこんなに良くしてくださるんですか?」
「俺ってさ、本当に徳川の血を引いてるのかも怪しい忌み子だって言われててさ、
だから差別もされたし虐待も受けたのね?
親父からは捨てられたも同然だったけど、
ここに来て本っ当に良くしてもらって。
人の暖かさを知った。
今の俺があるのは豊臣家のおかげだ。
だから命ある限り豊臣家のために尽力するつもりだ。
徳川家と豊臣家の架け橋になる、それが俺が生まれてきた意義だから」
「兄さん、感謝いたします」

「最後にこんなに立派になった秀頼さまを見ることができて良かった。
どんな風にお育ちしたのかちょっと不安だったんだが、安心したぜ。
これから秀頼さまは本当に大変なことが沢山待ち構えていると思う。
どうか人を見る目を育ててほしい。
そいつが本当に自分のためを思って言ってくれてるのか、
それとも取り繕うために言ってるのか、
なぜそのようなことを言うのか、意図を探ってほしい。
天下静謐のため、
民のために身を挺して発言する、
そういった者の意見は取り入れるべきだ。
そう言ったものをそばに置け。
イエスマンは心地良いが自分がダメになるからな。
気を付けてくれ」
秀康は苦しそうに語った。
「すまない、こんなていたらくな姿を見せて…」

その後の秀康は伏見城代を辞任し、国許の越前へ帰って行ったという。
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