花のようなる愛しいあなた
数日後、輿入れの支度が整うと千姫達一行は豊臣家の使者たちに誘導されて大坂城へいよいよ向かう。
船に乗り、鴨川から淀川を下ること約6時間。大坂城に到着した。

「うわぁ、なんておおきなおしろ!」
「すごーい!でっかーい!」
「噂には聞いてましたけど、ここまでとは・・・」
海と川に囲まれた金色に輝く巨城に一行は圧倒された。
千姫の暮らしていた江戸城も大きな城ではあったが、まだ作ってる途中だったので、大きくて立派・・・というよりは、工事現場みたいな落ち着かない感じもあった。
大坂城は何もかもが巨大で煌びやかで豪華で日本一の城という噂通りだった。
「昔、私も大坂城いたことがあったけど…その時よりも立派になってるわ」
多喜もそわそわしていて落ち着かない様子だった。

幾重もの堀を超え幾重もの門をくぐりようやく本丸まで到着すると、淀殿と侍女たちや侍従たちが一行を出迎えてくれた。
大坂城の皆は雅で気品があり、そして良い香りがした。
「多喜!!久しぶりね!」
茶々(ちゃちゃ)様(淀の幼名)!お久しゅうございます」
「茶々姉って呼んでよ!もう、元気だった?」
多喜と淀殿は涙を流しながら抱き合っていた。
「久しぶりだな、多喜!」
「おばばさま、修理(しゅり)殿、主馬(しゅめ)殿、お久しゅうございます」
多喜は江の侍女をしていたが実は、淀殿や江の腹違いの姉妹である。
なので主の淀殿だけでなく、淀殿に付いている家の者たちとはほぼ顔見知りなのだった。
まるで同窓会のような懐かしい空気がそこにはあった。
淀殿は優しく千姫を見つめる。
「多喜、このかわいい娘たちを紹介してくれるかしら?」
「はい、こちらが徳川家の姫君の千姫様でいらっしゃいます」
「せんともうします!
ふつつかものではありますが、よろしくおねがいします!」
千姫は精一杯元気に挨拶をした。
「こちらこそよろしくね。
遠いところ大変だったわね。
私のことは母だと思って頼ってね。」
「はい!」
「後ろの娘は、多喜の娘?」
「はい、この子は松と申します。
千姫様の一つ下で話し相手として一緒に連れて参りました。」
淀殿は二人を見て満足そうに言った。
「やっぱり思った通り、美形だわね!
徳川秀忠(こだぬき)の血が入ろうが何だろうが、やっぱり浅井(あざい)家の血を引くと美形に育つのよ!」
「本当に徳川の血が入ってるのが不思議なくらい可愛らしいものねぇ」
おばば様と呼ばれた大蔵卿の局がまじまじと千姫を覗き込む。
「織田の血も相当美形揃いだけど、ほら、多喜の子もあんなに可愛いんですもの。
やっぱり、浅井だわね!」
「本当に!」
淀殿は嬉しそうに息子の話を始めた。
「秀頼様もね、秀吉(さる)の血が入ってるのが不思議なくらい超イケメンなの!」
「…さ、さようでございましたか…」
多喜は思わず凍り付いてしまう。
先の太閤殿下を堂々と猿呼ばわりしているのにも驚きだったが、秀頼は実は豊臣秀吉の実子ではないという噂があり、それを巡っていろんな人たちが処刑されたりしたという過去もあった非常にデリケートな案件だったからだ。
秀吉が何人も側室を持っていたのにも関わらず子宝に恵まれなかったこと、そして秀頼が美形すぎることが噂の理由としてあった。
けれど、こんなに冗談めかして軽く発言できるということは、秀吉の子であることは間違いないんだろうなと多喜は判断することにした。
「で、秀頼様は今どちらに?」
「ほら、結婚の儀式の前に顔を合わせるのってあんまり雅じゃないじゃない?
やっぱりサプライズがないと!
でも、母としては秀頼さまのお嫁ちゃんが可愛い娘で一安心よ~!」
この頃の夫婦というのは、結婚式で初めて相手の顔を知るというケースが少なくなかった。
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