花のようなる愛しいあなた
「完姉様はどこにいるんですか?」
「実は完子は臨月でね、今回は来れなかったんです」
幸家が答える。
「……?」
「だから私が名代で来たのよ」
由衣が言葉を挟む。
「……?」
幸家の言葉が呑み込めず千姫たちは理解するのに少し時間がかかった。

「えええええ!!!?」

「臨月って…
あのお転婆姫さまに!?
お子が!?」
「あはは、君は重成くんですね?」
「え?あ、はい…。
すいません、取り乱しまして」
「完子から可愛い弟分だったって聞いてますよ」
「……」
「完子は確かにお転婆さんですよね」
幸家は何かを思い出して嬉しそうに笑った。
「我が家に来て間もない頃はおとなしくしてたんですけど、ある日木登りをし始めましてね」
「はぁっ!!!?」
「どうやら洗濯物が飛ばされて木に引っかかってしまったらしくてね、侍女たちがオロオロしていたところをサッと解決してみせたっていうのが真相らしいんですけど」
「はぁ…」
「私はいたく感動しましてね」
「はい!?」
「今まで私の周りにいなかったタイプですので興味深いというのもありましたが、正義感があり行動力もあり、しかしながら、文学にも精通して自分の考えをしっかり言うことができる。
私はそんな聡明な彼女を誇りに思うし尊敬しています」
「そうですか…」
完子を褒められて重成はちょっと嬉しくなった。
あぁ、この人は大人だなぁ、と。
完子の全てを受け入れて尊重し敬愛してくれてることが救いに感じた。
「そうですね、完姫さまは私にとっても大切な姉上のような存在でした。
これからもよろしくお願いします」
「そうだね、大切にするから安心してください。
でないと、君に攫われてしまうからね」
幸家は重成にこそっと耳打ちした。
「!!!!!!!
あ、あいつなんて事まで…!」
真っ赤になった重成を由衣がフォローする。
「もう、幸家さま、いじめすぎですわよ」
「はは、すまない。
ライバルにはしっかり釘刺しておこうと思って」
幸家は楽しそうに笑って言った。


初詣の時間まで円形になって羽根突きを楽しむ。
秀頼にとって飛躍の一年が始まる。



……筈であった…。
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