花のようなる愛しいあなた
「秀頼、成人おめでとう。
本当はもう少し早くお祝いに来たかったのだけれど…」
歌会が終わった頃を見計らって、寧々さんは政務室に顔を出して秀頼に挨拶をした。
寧々さんの動きは基本的に徳川幕府に監視されている。
隠居したとはいえ、寧々さんの影響力は大きいことがわかる。
特に異国の使節団を迎えて交渉を行なっていたここ最近は京の警備が異常なほどまで厳しくて日常生活にも支障をきたすほどであった。
その交渉やらが終わり、家康は駿府に秀忠は江戸に大軍と共に引き上げて行ったので、ようやく寧々さんも外出できるようになった。
「もしかすると、ここに来れるのは最後かもしれないから色々持ってきたわ」
寧々さんは辰姫を秀頼に紹介する。
関ヶ原の戦い直前に三成からお願いされて寧々さんは辰姫を養女として引き取った。
石田家の一族郎党処刑されたが寧々さんのおかげで辰姫は救われることとなった。
今後は津軽家に嫁ぐことになっていて、今は京で花嫁修行中である。
今回、辰姫は父の三成から託された帳簿や文書類を沢山持ってきていた。
それは関ヶ原の戦い以前の家康が西の丸に入り執権を行う以前の資料であった。
「破棄されたと思っていた…」
「秀頼さまが政務を行うお歳になられたらお見せするように父から言い遺されました。
遅くなりまして、申し訳ございません」
振姫は涙ぐみながら頭を下げた。
「父のこと、申し訳ありませんでした。
私などが謝っても仕方のない事ですが、父のせいで豊臣家に不利益をもたらす結果となりました。
本来ならとてもお顔向けできる立場ではございませんが……どうぞお納めください」
「頭を上げてください。
あなたこそ豊臣家のせいでお辛い立場とさせてしまいました…。
治部殿の貫いた正義には感謝しております。
そして今もなお当家を慮ってくださり感謝に絶えません」
秀頼は丁重に答える。
「勿体ないお言葉でございます。
一生忘れません」
寧々さんと辰姫が帰る時、一人の少女が残された。
先ほど辰姫を呼びに来た小間使いで、名を雪といった。
辰姫に付いていたが、津軽までは連れていけないので大坂で働かせてやってほしいとのことであった。
歳は千姫や松と同年代で台所長のヨシさんとは遠い親戚のようだった。
「お千ちゃんの主に給仕担当の侍女として使うと良いわ」
と寧々さん。
「何でですか?」
「この娘は忍びの家系の子なの」
「えっ!格好いい…!」
「得意技は人の顔を覚えること」
「忍術とかじゃなくて…?」
「忍術よりも大切なことよ?
この城には何人の人間が住んでると思う?」
「あ、さっきお辰さんに教えてもらいました。
1万人くらいですよね?」
「その通りよ。
で、お千ちゃん、あなたはその中の何人を知っていますか?」
「…100人くらい…?」
「でしょ?
この城は、入るのは堅固で苦労するけれど中で動き回るのは結構簡単なのよ。
現に私がこうしてしょっちゅう城に出入りしてても気づかない者も多いでしょう?」
「確かに」
「例えば敵に内応してる者が入城したら、簡単に謀反を起こせる可能性があるわよね?
手っ取り早く食事に毒を混ぜてみたりね。
そうなってくると、侍女や家臣や小作人に至るまで顔を覚えて、知らない者がいたらいち早く察知する能力が必要なわけ」
「なるほど、格好いい…!」
「ヨシさんも歳だからいつ死ぬかわからないし」
「!!!」
本当はもう少し早くお祝いに来たかったのだけれど…」
歌会が終わった頃を見計らって、寧々さんは政務室に顔を出して秀頼に挨拶をした。
寧々さんの動きは基本的に徳川幕府に監視されている。
隠居したとはいえ、寧々さんの影響力は大きいことがわかる。
特に異国の使節団を迎えて交渉を行なっていたここ最近は京の警備が異常なほどまで厳しくて日常生活にも支障をきたすほどであった。
その交渉やらが終わり、家康は駿府に秀忠は江戸に大軍と共に引き上げて行ったので、ようやく寧々さんも外出できるようになった。
「もしかすると、ここに来れるのは最後かもしれないから色々持ってきたわ」
寧々さんは辰姫を秀頼に紹介する。
関ヶ原の戦い直前に三成からお願いされて寧々さんは辰姫を養女として引き取った。
石田家の一族郎党処刑されたが寧々さんのおかげで辰姫は救われることとなった。
今後は津軽家に嫁ぐことになっていて、今は京で花嫁修行中である。
今回、辰姫は父の三成から託された帳簿や文書類を沢山持ってきていた。
それは関ヶ原の戦い以前の家康が西の丸に入り執権を行う以前の資料であった。
「破棄されたと思っていた…」
「秀頼さまが政務を行うお歳になられたらお見せするように父から言い遺されました。
遅くなりまして、申し訳ございません」
振姫は涙ぐみながら頭を下げた。
「父のこと、申し訳ありませんでした。
私などが謝っても仕方のない事ですが、父のせいで豊臣家に不利益をもたらす結果となりました。
本来ならとてもお顔向けできる立場ではございませんが……どうぞお納めください」
「頭を上げてください。
あなたこそ豊臣家のせいでお辛い立場とさせてしまいました…。
治部殿の貫いた正義には感謝しております。
そして今もなお当家を慮ってくださり感謝に絶えません」
秀頼は丁重に答える。
「勿体ないお言葉でございます。
一生忘れません」
寧々さんと辰姫が帰る時、一人の少女が残された。
先ほど辰姫を呼びに来た小間使いで、名を雪といった。
辰姫に付いていたが、津軽までは連れていけないので大坂で働かせてやってほしいとのことであった。
歳は千姫や松と同年代で台所長のヨシさんとは遠い親戚のようだった。
「お千ちゃんの主に給仕担当の侍女として使うと良いわ」
と寧々さん。
「何でですか?」
「この娘は忍びの家系の子なの」
「えっ!格好いい…!」
「得意技は人の顔を覚えること」
「忍術とかじゃなくて…?」
「忍術よりも大切なことよ?
この城には何人の人間が住んでると思う?」
「あ、さっきお辰さんに教えてもらいました。
1万人くらいですよね?」
「その通りよ。
で、お千ちゃん、あなたはその中の何人を知っていますか?」
「…100人くらい…?」
「でしょ?
この城は、入るのは堅固で苦労するけれど中で動き回るのは結構簡単なのよ。
現に私がこうしてしょっちゅう城に出入りしてても気づかない者も多いでしょう?」
「確かに」
「例えば敵に内応してる者が入城したら、簡単に謀反を起こせる可能性があるわよね?
手っ取り早く食事に毒を混ぜてみたりね。
そうなってくると、侍女や家臣や小作人に至るまで顔を覚えて、知らない者がいたらいち早く察知する能力が必要なわけ」
「なるほど、格好いい…!」
「ヨシさんも歳だからいつ死ぬかわからないし」
「!!!」