花のようなる愛しいあなた
千姫が多喜と揉めている頃、秀頼の病を聞きつけて、福島正則が見舞いに訪れた。
「福島さま、危のうございます!
近づいてはなりませぬ!」
「俺が痘瘡ごときに負ける訳ないだろ!
何度もそんな奴らと対面して来たわ!
通してくれ!!」
福島が秀頼の部屋に通されるというか部屋に向かって突進していくのを見て、千姫は居ても立っても居られなくなった。
ちなみにこの頃の人たちは感染症に対する知識が低かったので、基本的に気合で何とかなると思っている。

「お雪」
「はい、姫様」
「あなたはどこから秀頼くんの事を知ったの?」
「私が秀頼様に給仕することもございましたので」
「!」
千姫は誰にも聞こえないように声を顰めお雪に懇願する。
「お願い!それ、私にやらせて!」
「ダメです」
「一回だけで良い、無事を確認したいの」
「伝染ったらどうするおつもりですか?」
「別に伝染ってもいい。
秀頼くんにこのまま会えないなら、いっそのこと伝染って死んだ方がマシだよ…」
千姫の気迫にお雪は押し切られた。
「一応変装はしてくださいね…」
「松、身代わりお願い!」
「…本当は私も反対ですよ…?
でも、言ったって聞かないのよね…」
「2人ともありがとう…!」
「…でも、ま、伝染らないとは思いますけどね…。
秀頼様、完治してるし…」
お雪は小声で呟いた。
「え?何?」
「何でもございません。
すごい姫様だなぁと思っただけです」
千姫と松は入れ替わり、お雪に続く。

一応変装してるとはいえ、多喜や他の侍女に見つかるとこっぴどく怒られるので2人は密かに部屋を抜け台所へ向かう。
まずは千姫の部屋の近くにある物置小屋に入り、地下通路を歩いてゆく。
「…お雪、何でこの通路知ってるの…?」
「昔、私の家の者たちが掘ったらしいので、一族の者達から伝え聞いていたのと、辰姫様が所持されていた図面に書いてあったのを暗記しました」
「…すごい…」
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