身代わり王女の禁断の恋
ハールは相変わらず、その場を動かない。

私がバイオリンを片付け終えると、ハールは言った。

「君が先に帰るといい。
君が俺と帰るところを誰かに見られると、
後々、厄介な噂にならないとも限らない
からね。」

厄介な噂?

ああ!
こんなところを誰にかに見られたら、王女が男性と森で逢引をしていたなんて、下世話な噂になりかねないんだわ。

だめよ。絶対にだめ。

だって、王女殿下は、まもなくどこか隣国の王子さまとご結婚なさるはずなんですもの。


私はバイオリンを抱えると、片手でドレスの裾を摘み上げ、膝を曲げて言った。

「ごきげんよう、ハール。」

「ごきげんよう、フルーナ。
また明日。」


私は、急ぎ足で森を抜ける。

部屋に戻り、何もなかったかのように振る舞う。



当然、翌日も普段通り、午前中は、クラウスとダンスを練習する。

ところが…

「王女殿下、何かございましたか?」

突然、クラウスに言われた。

「え? 何も。
どうして?」

「ステップが急に軽やかになられた気が
したものですから。」

っ!!
昨日、ハールと少し踊っただけで、変わるの?
っていうか、それ、分かるの?

「き、気のせいじゃないかしら。」

私が言うと、クラウスは珍しく笑みを浮かべて言った。

「この調子なら、もう舞踏会に出ても大丈夫
そうですね。」

「えっ!?」

私が王宮に来てから今日まで、何度か舞踏会は開かれたけれど、私は全て体調不良ということで欠席していた。

いつも晩餐会だけ出て、クラウスの耳打ちを頼りに当たり障りのない話をして部屋に戻ってたのに…
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