身代わり王女の禁断の恋
夕刻になり、晩餐会が始まる。

私の他、ビオラ、チェロ、コントラバスの4名で俄かカルテット(弦楽四重奏)を組んで、食事中のBGMを演奏する。

2時間半に及ぶ晩餐会の後、しばしの休憩を挟んで舞踏会へと移行する。

私たちは、楽屋に用意していただいたサンドイッチを数個、急いでお腹に入れて、舞踏会会場へと向かう。

音楽を奏でながら、国賓の皆さまを会場でお迎えする。

私はもう、朝から1日中バイオリンを奏ですぎて、首は痛いし、右手は上がらないし、限界だったけれど、国王陛下の在位二十年の祝賀の席で粗相をする訳にはいかない。

深夜12時まで、私は気力だけでバイオリンを弾き続けた。

国賓の皆さまが会場を後にされ、大広間にいるのが使用人だけになると、皆が、大きく息をつく。

力尽きたようにバイオリンを下ろす私のもとへやってきた指揮者は、優しく微笑んで言った。

「ありがとう。よく務め上げてくれたね。
さすが、リヒャルトの娘だ。」

え?

「あの、父をご存知なんですか?」

「勿論だ。
昨年、リヒャルトが突然亡くなるまで、
一緒にこの楽団で演奏していたんだからな。
あんなに素晴らしいバイオリニストが
あの若さで亡くなるなんて、本当に残念で
ならないよ。」

そう言って、指揮者は、目頭を押さえる。

「ありがとう…ございます。
そんな風におっしゃっていただけて、
父も天国で喜んでいることでしょう。」

私が頭を下げた時、我知らず、涙が一粒、スカートに染みを作った。
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