身代わり王女の禁断の恋
「………分かりました。
母に断って参りますので、少々お待ち
ください。」

私はそう言い置いて、母の部屋へ向かった。

「お母さま、クリスです。」

私はノックをすると、返事を待たず、部屋に入る。

「お母さま、加減はどう?」

「クリス。
今日は発作もないし、大分いいわ。
ありがとう。」

母はベッドから身を起こそうとした。

「いいのよ、お母さま。」

私は母の肩にそっと手を置いて、それを制した。

「私、今から出掛けなくてはならないの。
お夕食は一緒にいただけないと思うから、
先に召し上がってらしてね。」

そう伝えると、母は青白い顔に心配そうな表情を浮かべる。

「クリス、こんな時刻から、一体どこへ
行くの?」

「宮廷からお使いがいらしたの。
詳しくは伺ってないんだけど、この間の
舞踏会の折に、宮廷楽師にってお話も
いただいてるし、何か楽団の事でお話が
あるのかもしれないわ。」

私がそう話すと、母は申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさいね。
仮にも男爵家の娘に生まれたのに、あなたに
働いてもらわないといけないなんて。」

「お母さまは、そんな事気にしないの!
私、お父さまに教えていただいた音楽を
楽しんでるだけよ?
それだけでお金がいただけるんですもの、
全然、大変だなんて思ったことないわ。」

本当にそう。

小さな生徒さんはかわいらしいし、大きな生徒さんは、それはそれは私を大切に扱ってくださる。

唯一、気になることと言えば、最近なぜか、大人の男性からの依頼が増えていること。

レッスン時間を伸ばしたので、時間の折り合いが付かず、やむなくお断りしているが、なぜ、そんな歳になってから音楽を始めたいのか分からない。
< 7 / 155 >

この作品をシェア

pagetop