テキトー上司は、溺れるほどの愛を私に注ぐ。
第1章
テキトー上司のお気に入り
「ちょっと菜緒(なお)聞いてよ!昨日の合コン、何ひとつ収穫なかったんだけど」
向かいのデスクにドカッと座ったかと思えば、仏頂面全開の沙耶香(さやか)は大きなため息をひとつ零した。
「おはよ。あのね?……沙耶香は理想が高すぎるの。どうせ今回も"自分の理想に完全一致する人がいなかった"とか言うんでしょ」
呆れ半分に口を開けば、さっきよりも深いため息と共に「理想と一致しないのに妥協したくないもん!」なんて、沙耶香らしい返事が返ってきた。
大手化粧品会社である、株式会社Co&You(コーアンドユー)に務める私と沙耶香は同じ営業事務に配属されたこともあり、同期の中でも仲が良い。
高級化粧品「Amy(エイミー)」の製造を強みに持ち、開発から製造、販売までを手がけるCo&Youは、3年前に海外進出を果たした、女性に大人気な化粧品メーカーなのだ。
とはいえ。
私たち営業事務は、請求書などの書類作成や、受発注データの入力、社内会議用資料の準備が主な仕事。
化粧品とはあまり関わりのない、縁の下の力持ちポジションなのだけれど。
< 1 / 6 >