※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
この前、お父さんのプレゼント選びに付き合ってくれたお礼になにかさせてほしいと伝えると、『じゃあ、もう一回デートがしたい』と返事がきて、今に至るというわけだ。
「はのんちゃんとのデート、楽しみで。ところでどこ行くの?」
アイボリーのマフラーに、グレーの手袋。
よし。防寒対策はしっかりしている。
コートは着ていないけど……ブレザー着てるし、まあ、大丈夫だろう。
問いかけに答えることなくぱぱっと上から下までユキのチェックをした私は、デートプランってやつを明かした。
「行き先は決めてない。切符を買って終点まで行って、また終点から次の終点に乗り継ぎ続けるの」
「え?」
憎たらしいくらいに整った顔に驚いたように見つめられ、私はそんなに変なことを言っただろうかと少し唇を尖らせる。
「嫌だったらやめるけど」
「――だめ」
ふわりと落ちてきた思いがけない言葉に顔を上げれば、ユキが大人びた微笑みをたたえて私を見下ろしていた。
「今日だけは、はのんちゃんは俺のものだから」
いつもの私最優先とは少し違う強引な言葉に、不覚にもドキッと心臓が跳ね上がる。
こうしてユキとの行き先のないデート――〝逃避行〟は幕を開けた。