※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
不意に右肩に熱とほんの少しの重みが落ちてきた。
見れば、ユキが私の肩にもたれかかっていた。
「ちょっと……!」
「知ってる人がいない間だけ。少しだけ、こうしていたい」
耳元で切実な声音でじんわり囁かれ、それを拒むことは躊躇われた。
けれど突然の接近に、私は心臓が口から飛び出るのではないかというくらい動揺していた。
恋愛の数は人より多く重ねてきたはずなのに、こんなことで動揺している自分が小っ恥ずかしい。
黙っていると照れていると思われてしまいそうだから一生懸命言葉を探そうとするけれどうまくいかず、私は結局うつむいた。
右肩ばかりに意識が集中し、呼吸で体を動かすことさえ躊躇われて、息が詰まる。
そんな私に寄り添うみたいに、香水とは違う甘い香りが鼻孔をくすぐった。
電車の速度ががくんと落ちて、目に映る景色がスローモーションのように見える。
この世にふたりきりになったような感覚の中、右肩にユキの温度を感じていると。
「このまま、ふたりでどこまでも行けたらいいね」
不意に、しんみりとつぶやく声が落ちてきた。
それは、耳を傾けなければ聞き逃してしまうくらい、あっという間に音もなく空気に溶けていく。