※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
わずかにユキの心音が速まった気がした。
私の心臓の音も、この逸る心音に重なればいいと思う。
すると、その時。
「……ぐー」
突然、私たちの間に流れていた穏やかな空気に、場違いな音が割入ってきた。
それはなにかの間違いであってほしいけど、紛れもなく私の空腹の知らせ。
やば……と血の気が引くのを感じながら自己主張の激しいお腹に手を当てると、「ふは、」と空気の緩んだ笑い声が聞こえてきた。
それと同時に、肩から温もりと重みが離れ、ひんやりとした空気が首に触れる。
「次の駅で一度降りて、なにか食べよっか」
そう言って少し可笑しそうに笑うユキは、もうすっかりいつものユキだった。