※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


「いただきます」


そう言って私が鯛焼きにかじりつくと、ユキもそれにならって鯛焼きにかじりつく。

すると、途端にぱっと目を輝かせた。


「はのんちゃんすごいよ、魚なのに甘い……!」


けれどそこで突然我にかえったのか、かーっと赤くした顔を恥ずかしそうにうつむける。


「あ、ごめん……。ひとりではしゃいじゃって……」


いつも見本のように綺麗に笑っているだけなのに、鯛焼きを前にすると百面相みたいに表情をころころ変えるユキが面白くて、私は思わず吹き出した。


すっかり忘れていたけれど、はるくんとして交流がある頃から、世間知らずだと思うことが多かった。

日常の中で当たり前のようなことを知らなかったりするのだ。


エンプロイドとは、みんなそういうものなのだろうか。

エンプロイドに詳しくないから、そこら辺のことが全然分からない。


「鯛焼きにそこまでいろんな感情持つ人、初めてだわ」

「なんか恥ずかしい」


照れたようなユキのピンク色の笑顔が移って、私はまたくすっと笑みをこぼした。


ユキといると、いろんなことが新鮮に思える。


エンプロイドだと言ったって人間となにも変わらないのになと、心のどこかでそんなことをぼんやり思ったけれど、それをうまく言葉にすることはできなかった。

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