※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
ユキは私の声でようやく涙の存在に気づいたというように、セーターの袖で頬を拭う。
「……ごめん、なんでもない」
「でも、」
「ありがとう」
ユキがこちらを見る。
さっきまでの空気をリセットするみたいに、いつもの隙のない綺麗な笑顔を浮かべて。
「ここに来られてよかった。はのんちゃんとこんなに綺麗な景色が見られて幸せ」
「なにそれ。大袈裟」
「俺の世界はずっと孤独でモノクロだった……。俺の時間はずっと止まってたんだ」
ユキがそっとわたしの手をとり、そして自分の心臓のあたりにその手を当てる。
そこではたしかにユキの鼓動が息をして、ここにいるよと私に伝えてきた。
「でもね、はのんちゃんに出会って、初めて心臓が動いてることと、心臓がある意味を知ったんだよ」
ドクドクと少しだけ逸るユキの鼓動。
でもきっと私のそれの方が倍は早く動いている気がする。
「はのんちゃんは俺にたくさんの初めての感情をくれた。はのんちゃんを好きになって、はのんちゃんの笑顔の理由になりたいと思った。君を好きになってよかった」