※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「ねぇ。せっかくだから、スマホでこの海の写真撮ったら? 逃避行記念に」
「スマホで?」
「まさか撮ったことなかったりする?」
「……うん。なにを撮ったらいいか分からなくて」
少し恥ずかしげにユキが苦笑する。
世間知らずとは思っていたけれど、まさかここまでとは。
でもユキの瞳には、なにが綺麗に映るのか少し興味があった。
「なんでもいいんだよ。直感的にあんたが綺麗だな、素敵だな、って思った景色をカメラに収めればいいの」
「うん、やってみる」
ユキはポケットからスマホを取り出すと、おもむろにそれを私に向けた。
パシャリと音が鳴って、そこで自分が被写体になったことを悟る。
「海じゃなくて私?」
「うん、はのんちゃん」
スマホから顔を覗かせ嬉しそうに笑うユキを見たら、突っ込む気もなんだか失せてしまった。