※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


心の奥深くに閉じ込めていた一番脆い本音がこぼれて、ぐわっと襲いくる涙の予感に抗えなくなり、私は思わず両手で顔を覆った。


「……時々、消えてなくなりたくなる……」


何度も脳裏に浮かんでは言語化できずに、それでも心に蓄積していた思いが波間にこぼれ落ちた。


すると、その時。不意に頭の裏に手が回され、強く引き寄せられた。

ふわりと甘い香りが鼻に触れて、抱きしめられていることにようやく気づく。

  
「こうされると、人ってストレスが減るんだって」


耳元で聞こえてきたのは、昇りたての朝陽よりも柔らかい声。


「……な、」

「毎日、はのんちゃんは闘ってるんだね。よく頑張ったね」


そっと紡がれたユキの一言一言に、どうしようもなく涙腺が刺激されてうっかり泣きそうになる。


その存在に縋るみたいに、ユキの背中にそっと手をまわす。


凍えるような潮風は、私たちを包む空気に割って入ってこようとはしない。

< 143 / 185 >

この作品をシェア

pagetop