※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「はのんちゃん……」
説明書に書いてあった。
『エンプロイドは、食事を必要としない。万が一人間食を口にすると、体が拒否反応を起こして強烈な吐き気をもよおす。』と。
それなのにユキは、逃避行中に食事をとることになった時、躊躇うことなく食べ物を口にしたのだ。
ユキの愛はやっぱり捨て身で、自分自身を顧みようとしない。
……私は、ユキに自分自身を大切にしてほしいのに。
私がすべてを知ったことを悟ったユキは、持っていた文庫本を窓の縁に置いて、窓から差し込む光を背に、そっと申し訳なさそうに眉尻を下げて笑った。
「ごめんね。はのんちゃんの前では、普通の人間みたいに振る舞いたくて」
思わず私は声をつまらせた。
「私のせいだ……」
私が、エンプロイドであることを批難する言葉をユキにぶつけてきたから……。
ぎゅっと拳を握りしめて立ち尽くしていると、ユキがこちらに歩いてくる気配があった。
「違うよ。男はだれだって、好きな子の前ではかっこつけたいんだ」