※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「ありがとう」
額から唇を離しながら、囁くユキ。
至近距離で絡み合うその瞳には、わずかな熱がこもっていて。
端正な顔立ちに、思わず見とれる。
だけど――胸に生まれるわずかな違和感。
……ああ、そうだ。ユキの瞳に、熱と共に海のような深い色が潜んでいるのだ。
海のような深い色は、言いようのないもの悲しさを称えている。
それに気づいたのと同時に、ユキがぽつりと透明な声をこぼした。
「はのんちゃん、俺、君に言わなきゃいけないことがある」
「え?」
「俺、実は、」
すると、その時。突然鳴り響いた予鈴が、ユキの唇がそれ以上動くのを遮った。
私たちの間の張りつめていた空気も、ぷつんと切れる。
「授業始まっちゃうね。この続きは今度にしよっか」
そう言って苦笑するユキの顔には、ほっとしたような安堵の色も滲んでいて。
「……うん」
――ユキは、いったい今なにを打ち明けようとしたのか、チャイムが鳴らなければ今頃どうなっていたのか。
なにかを予感するような胸のざわつきを感じながらも、私は音楽室を出るユキの後を追った。