※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
向日葵と、雪
逃避行から、ちょうど2週間後の金曜日。
それは4時間目の体育が終わり、教室に戻る途中のことだった。
昼休みを迎えたばかりで賑やかな廊下を、私たちは横に広がりながらいつものグループで歩いていた。
「さっきのバスケ、岸ぴーちょっとかっこよくなかった? 不覚にもあれはときめいた……」
「岸井、元バスケ部らしいよね。黙ってればかっこいい」
「分かる~」
みんなが同調だらけのガールズトークに花を咲かせる中、私はぼんやりユキのことを考えていた。
ユキは、最近体育に参加しない。
参加しないことによって心ない陰口を言われても、体育館の端で座って見学している。
手足の長いユキだから、バスケなんてしたらかっこいいに決まっているのに。
体育に参加しない理由は分からない。
もしかしたら、人間に反抗できないよう制御している腕輪のせい?と考えて、そこでふと陰鬱な気持ちになる。
ユキのことを――エンプロイドのことを、私はまだ全然わかっていないのかもしれないと。
それに、ユキの時折見せる眼差しが、とても気になる。
すべてを諦めたような、手を伸ばしても届かないほど遠くを見ているような眼差しが。
その眼差しの理由は、どれだけエンプロイドの説明書を読みあさっても載っていない。
そもそもエンプロイドは、ユキのように愛情を持ったり、笑ったり泣いたりするのだろうか。
いろんな人間がいるように、ユキにも感情というものは当たり前のようにあって、ユキのすべてをエンプロイドというくくりでまとめるのは間違っているのかもしれない。