※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
すると、その時。
「はのーん」
猫なで声が、思考を遮るように私の名前を呼んだ。
現実世界に意識を戻すと、さっきまで先頭でリカと話しながら歩いていたはずの舞香が、私に体を寄せてきていた。
こういうふうに甘えるように名前を呼ばれる時、舞香がなにを言いたいのかは分かっている。
だけど自分から言うのはなんだか癪で、あえて尋ねる。
「どうしたの?」
「来週の月曜、彼氏が誕生日なんだけど、はのんのとこのチーズケーキが食べたいんだって。用意しといてくれない?」
やっぱり。予想を裏切らない答えが返ってきた。
どうしてなにも感じずに、こんなにぽんぽん頼めるのだろう。
彼女にとって私は、ただのケーキの支給係。
「それは……」
「じゃ、そういうことだから。よろしく」
ちょうどそれは教室に着くタイミングで、ひらひらと手を振って舞香が教室に入っていこうとする――が、舞香は立ち止まった。