※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「勘違いしてるのかもしれないけど、私はエンプロイドと馴れ合うつもりはないから」
少しでも彼を傷つけられる言葉と声音を、無意識に探している。
けれどユキは折れなかった。
「でもひとりで帰るのは危ないから」
無視するように歩くと、ローファーの足音がついてくる。
ほんの少しの距離を保って。
「はのんちゃんの家の方向、全然人が通らないんだね」
「……っていうか、なんで私の名前、」
「朝の点呼の時に。素敵な名前だよね」
なんの他意も企みもない、ただただ純粋な言葉が白い靄になって外気に溶けていく。
どうしてそんなに〝清らか〟なのだろう。
それが余計に腹立たしさを刺激する。
こんなことになるなら、今朝助けたりしなければよかった。
ユキに反応せず、ひたすら歩き続ける。
少しでも反応してしまえば負けな気がするし、心に隙を作ってしまいそうだから。