※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
そうしてぐんぐん駅に向かって歩いていると、やがて交差点に差し掛かった。
歩道の信号は青。
特にまわりは気にせず、歩道に足を踏み入れた、その時。
「はのんちゃん、危ない……!」
突然飛んできた声。
次の瞬間、私の体はなにかに包み込まれていた。
なにかに顔を埋めたままぱちりと瞬きをすると、ユキに抱きしめられていることと、ユキの背中に小学生の乗った自転車が衝突したことに気づいた。
男子小学生は、交差点の影から突然飛び出してきたらしい。
自転車をぶつけたユキを見てあわあわと顔面を蒼白にさせている。
「お、おにいさん、ごめんなさい……!」
「おにいちゃんは大丈夫。今度は気をつけてね」
私を抱きしめていた腕を緩め、小学生の前にしゃがみ込むユキ。
一方的に責めるわけではなく、海のように凪いだ声で優しく語りかけている。
やがて男子小学生が謝りながら自転車で去って行くと、しゃがみこんだままユキがこちらを振り返り見仰いでくる。
その顔にはやっぱり、ムカつくくらい穏やかな笑みをたたえていて。
「はのんちゃん、ケガ、ない?」