※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
家ではるくんとやりとりしている時は落ち着いていられるのに、いざユキを目の前にすると、ユキが健気に笑うたびにそれと相反する苦い苛立ちが込み上げてくる。
臆病だからこそ、私は自分よりも下にいるこのエンプロイドに、心に浮かぶ気持ちをなんのオブラートにも包まずぶつける。
「話しかけないで。電車も同じ車両には乗りたくない」
「……わかった。ごめんね」
眉尻を下げて、笑顔の余韻は残したまま申し訳なさそうに声のトーンを落とすユキ。
その笑顔にズキッと胸に走る鋭利な痛みは見てないふりをして、ユキの横を通り過ぎようとする。
──だけど、それは叶わなかった。
くいっと後ろからコートの裾を掴まれ、体の動きが止まったからだ。
「じゃあ、これだけ」
顔に出る不快感を隠さないまま振り返れば、グレーの手袋を差し出される。
それは、さっきまでユキが着けていた手袋だった。