※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
話題が最近熱愛の発覚した芸能人になった頃、ずっと相槌を打つ程度だった舞香が、不意に話を切り出した。
「ね、はのんにお願いがあるんだけど」
「なになに?」
突然のことに、ドクンと心臓が反応して思わず食い気味に聞いてしまう。
けれどそんな私の様子なんて意に介せず、舞香は自分のペースを1ミリも崩さないで答える。
「来週、友達の誕生日があるんだけど、はのんの家のケーキあげたいんだよね」
……また、ケーキだ。
そんな軽いショックと共に、友達という言葉が石ころのように喉奥に引っかかった。
私のグループに来週が誕生日の子はいない。
つまり、グループ外の友達だ。
知らないところで舞香の友達が増えることに心が焦る。
いつか、あんたは要らないって呆気なく手を離されてしまいそうで。
「いいよいいよ! とびきり美味しいの、作ってもらう!」
「やった~! ありがと」
無邪気にくしゃっと破顔した舞香を見て安堵する。
よかった、今の受け答えは間違いではなかった、と。
それと同時に頭にふっと浮かんだのは、おじさんの顔。
「はのんは友達がたくさんいるから、ケーキも作りがいがあるなぁ!」
そう言って嬉しそうに笑う顔。