※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


走るのは嫌いじゃないけれど、特に好きというわけではない。


息を吐くたび、ポンプでせり上がってくるみたいに冷たい外気が肺を満たす。

ぴんと張りつめたような静かな空気を吸い込むと、冬を迎えていたことを実感する。


マラソンコースになっている平日の土手や住宅街は、人の往来がなくひどく閑散としている。

だからか空気は敏感で、私たちが立てるひとつひとつの音がやけに際だって聞こえた。


みんなでわいわい話しながら、それでもペースは落とさず走っていると、グループの先頭を走っていた舞香がふと声をあげた。


「マラソンって、何キロくらい消費できるんだろ。パンケーキ食べたくなってきた~」

「あ、この前の?」

「ふわっふわでめっちゃおいしかったよね。あれは並んだ甲斐があった」

「また今度行こーよ」

「あれ食べたら、確実にマラソンの消費分よりカロリープラスでしょ」

「ははは、たしかに」

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