※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「香山先生と結婚したーい」
「もし香山先生が結婚してたらショックすぎるんだけど」
気づけば、まわりの話題はイケメンで有名な保険医の香山先生が、既婚者か否かという議論に移り変わっていた。
私の心に差した影の存在は、だれにも気づかれない。
「でもさ、あのイケメンを世の女が放っておかないよね〜。はのんはどう思う?」
唐突に話を振られ、私は今までずっとそうでいたように咄嗟に笑顔を取り繕う。
「香山先生が旦那さんとか、奥さん幸せすぎない?」
「たしかに。わかるわ~」
その時、不意に視界が揺れた。
急激に吐き気が込み上げてくる。
耳の奥がじんじんと疼く。
――貧血だ。
そう気づいた時には立っているのがぎりぎりになって、私は思わず立ち止まっていた。