※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


ユキは画材の入った段ボールを持って教室の入り口に立ったまま。


今ユキがどんな顔でそこに立っているのか、まるで視線が凍りついてしまったみたいに、そちらを見ることができない。


すると、その時だった。


「センセー、機械と議論することなんてありませーん」


隣に座る舞香がのんびりとした口調で静寂を打ち破ったその言葉に、まるで頬をぶたれたような衝撃を覚えた。

それは憎たらしいくらいに、あまりに響いて鼓膜にこびりつく声だった。


すると、緊張の糸が切れるのを待っていましたと言わんばかりに、途端に教室中からどっと乾いた笑い声が上がる。


「たしかにー」

「言えてるわ」


このクラスの絶対的な支配者である舞香が言ったから。

そしてまわりのみんなも言っているから。

そんな空気が広がって、みんなの気持ちが大きくなっている。


悪意が図々しい顔で正論に成り代わっている。

それなのに、だれも異を唱えない。


……笑えない。みんなに合わせて笑わなきゃいけないのに、笑えない。


教室中に溢れる悪意に吐き気がする。この場にいることが苦痛でたまらなくて、今すぐ教室から駆け出したくなる。

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